偶然が二度目なら…⑱

 車内は程よく香る程度のムスクの香りが漂い、黒い色調をクールに照らすブルーライトが所々に点在している。

 大人の世界を感じさせる、ちょっとしたスリル感のある空間。


 昼食もゆっくり食べれなかったこともあり、結構お腹は空いてる方だ。そろそろ山ちゃんが来る頃かな?と思い、湊が辺りを見回した、その時。


「あっ」

「……ん?」

「私、……またしでかしたかも」

「へ?」


 あぁぁぁぁ、やってしまった、完全に。

 彼が困ってるのが見過ごせなかったから後悔はしてないけれど、また写真や動画が流出するような振る舞いをしてしまった。


 一応、変装らしくサングラスは掛けてるし、ヘアスタイルも全然違うんだけど。

 声質は変えられないし、体形も見る人が見れば分かりそうなもの。


「さっきのやり取りを撮られてアップされるんじゃないかと……」

「あ、…………その可能性はあるかもね」


 どうしよう。またまた迷惑をかけてしまった。

 私は慣れてるから気にしないけど、彼は一般人。

 見合いをセッティングするくらいだから、女優との噂を聞きつけたらご両親が卒倒するかもしれない。


「マネージャーが来たら、対策するように話します」

「大変だね。安心して外も歩けないでしょ」

「……まぁ、慣れましたけどね」

「俺の方は特に気にしないから、そちらが不利になるものだけ対処したらいいから」

「え?」

「仕事柄、嫌味言われたり恨み買ったりすることもあるから、SNSとかは見ないし気にしない派だから」


 気遣いで言ってくれてるのだとしても、おつりが出るくらい有難い言葉。

 彼の優しさにまた触れてしまった。


「本当にすみません……」

「謝らないでよ。御礼を言わなくちゃならないのは俺の方だし」

「……」

「じゃあ、相殺ってことで」


 余裕の笑みを浮かべた彼は、私の頭をポンポンと優しく撫でた。

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