偶然が二度目なら…⑪

「山ちゃん、まだ?」

「もう終わります!」


 控室で着替え、片づけをしている山ちゃんを待つ。

 山ちゃんはスタイリストさんに返却する衣装や小物類を纏めている。

 そんな彼女を今か今かと待ち侘び、『終わりました』を聞く前に彼女の腕を掴んで部屋を飛び出した。


「そんなに急がなくても……」

「ナッツ姫が待ってるんだから」


 ナッツ好きの私にとって、甘く蕩けるような『キャラメルナッツショコララテ』という響きは、フランス料理のフルコースより魅力的だ。

 シフォンのスカートが捲れてても気にしない。

 すれ違う男性の視線がはだける脚元に向けられようと、揺れる胸元に向けられようとも、お構いなし。

 仕事で下着姿になることだってある。常に視線を向けられる仕事をしているお陰で、鉄の心を装備してる私は、カフェ『S&L』へと。


 18時55分。期間限定セール実施中ということもあって、モール内はかなり賑わっている。そんな人混みを掻き分けるように、湊はマネージャーの山本を連れ、突き進む。

 お目当てのカフェ『S&L』に辿り着くと、オーダー待ちの客の列が店の外まで続いていた。


「結構並んでますね」

「キャラメルナッツショコララテとクロワッサンサンドね」

「は~い」


 ショーケースに並ぶ軽食類を眺めながら、今にもお腹がなりそうな湊。手土産にしようかと、ついつい興奮して食い入って見てしまう。

 

「ストロベリーナッツキャラメルも美味しそうだな」


 新商品ではないけれど、口にしたことのない味を見つけて口元が緩んだ、その時。


 聞き覚えのある声がした気がした。思わず、その声の方に視線を向けると。


「え、……あっ」


 あまりにも場に溶け込んでないというか。明らかに一人だけ浮いているというか。 お洒落なカフェに蛍光色のジャージを着ている人物に視線が釘付けになった。

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