偶然が二度目なら…⑨

『イベントが18時からあるので、時間的に厳しそうです』


 湊は久我にやんわりと断りのメールを送る。

 イベント出演が終われば今日の仕事は無いけれど、終わり次第向かったとして、間に合うか分からないし、軽はずみな返答で迷惑はかけられない。

 湊はドラマの打ち合わせを終わらせ、次の仕事現場であるショッピングモールへと急いだ。


 移動の車内でイベントの企画書に目を通していると、久我検事から『了解』と二文字だけのメールが届いた。

 別に返信を期待していたわけじゃないけど、たった二文字のメールに呆気に取られてしまう。


 口説かれたわけではないし、親しい間柄でもない。

 返信をくれるだけでも真面目な人だと思うから。


***


「あっ、新商品発見!」

「買って来ましょうか?」

「ううん、終わってからで。ご褒美にした方がより甘く感じるはず」


 イベントが行われるショッピングモールに到着し、控室へと向かう途中。港は恒例の『新商品ツアー』を楽しむ。

 湊は『甘いもの』と『ナッツ』と『新商品』には目がないのだ。


 仕事柄、常に注目を浴びるため、頻繁にモールには来られない。

 閉店間際の空いてる時間に少し時間延長して貰ったりして買い物をすることもあるけれど、やはり気が引ける。

 今の立ち位置がこの先も続くわけじゃないし、特別なことは何も望んでない。

 ごく当たり前のことが、当然のごとく出来るだけで満足。


 女優という仕事でなくても本当は構わない。

 ただ、行方が分からない両親に会うまでは、少しでも会える確率が高くなるならどんなことでも対価を払うつもり。

 テレビや雑誌などを通して、もしかしたら両親が私に気づくかもしれない。例え僅かな確率であっても、消息が分かるまでは……。


 興信所に継続して依頼し続けるには、それなりの金額が必要になる。しかも、湊の場合、1社でなく数社に依頼しているのだ。

 だから、両親の消息が分かるまで、どんなに辛いことがあろうとも泣き寝入りしないと決めている。

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