偶然が二度目なら…⑧

 映画の役作りのために、ヘアスタイリスが2時間ほどかけて仕上げてくれた髪。

 鏡に映る自分は、見たことのない姿に変身していた。


「うわぁ~、やっぱり素が良いとどんな色でも形でもキマるねぇ」


 胸の下まであった長い髪は肩につくかつかないかくらいの長さにカットされ、少しくすんだピンク色に変わっている。

 玩具の人形にあるようなビビットなピンクでは無い分、意外と落ち着いて見える。 何だか、意外とマッチしてるかも。


「はぁ~い、お疲れさま~~」


 掛けられていたケープが外され、手鏡を手渡される。

 一気に軽くなった髪のおかげで、気持ち的にも軽やかになった気がした。


「あぁ、でも……う~ん」


 セットチェアから下りてスッと立ち上がると、ヘアスタイリストの向島こうじまさんが、首を傾げた。


「似合わないですか?」

「ううん、凄く似合ってるんだけど、動いた時の髪の揺れがスナイパーって感じじゃない気がして」

「……言われてみれば」


 監督の希望で長さは短めと決まっている。

 ベリーショートにするか、ボブにするか検討中だが、とりあえずセミロングの長さでカラー調整するらしい。


「次は第一希望のグリーン系にしてみて、動きも予測してもう少しカットして雰囲気だすね」

「はい」

「じゃあ、今日の所はこれで対応して貰おうかな」


 この後の仕事に支障が出ないように、予め用意されているウィッグをつける。

 今朝と同じ長さとカラーのウィッグを。スモーキーピンクの髪色も短くカットした髪も誰にも悟られないようにしなければならないから。


 湊はメイクを整えて貰い、次の現場へとその場を後にした。


 車に乗り込むと、メールを受信していることに気が付く。


『今日の19時頃、仕事ですか?予定がなければ、少し付き合って貰いたいのですが』


 送り主は久我検事。何の用なのかは記されてない。

 19時頃?イベントは終わってる時間だけど、場所にもよるかな。

 移動時間を考えると厳しいかもしれない。

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