偶然は突然に⑪

 その日のうちに映画を降板することになった。

 撮影開始まで、まだ3カ月ほどあるからギリギリ変更も出来るはず。

 いや、出来る出来ないの問題じゃない。共演者には申し訳ないけど、他人を気遣う余裕はない。


「お疲れさまでした~」

「お疲れ様です。お先に失礼します」


 CMの撮影を一日中して、終わったのが20時少し前。

 疲れたし、お腹は空いたし、殆ど睡眠取れて無いから睡魔に襲われる。


「ジャケット出してくれた?」

「はい、出しました!明日の午後に仕上がるそうです」

「ありがと~」


 仕事でクリーニングに出しに行けない湊は、ジャケットをクリーニングに出して貰えるように、マネージャーに頼んでおいた。

 ジャケットがクリーニングから戻るのが午後か。あぁ~~、どうしよう。


「御礼をするなら、食事と小物類、どっちが無難?」

「ん~、仕事柄から言うとネクタイとかの方が使い易いでしょうけど、好みが……」

「だよね」


 社交辞令で物を贈ることはよくある。けれど、所詮は仕事仲間に対してだから。


 殆ど面識がなく、しかも恩人に対しての御礼で、トドメはイケメン検事と来た。

 何も考えずに、職場に宅急便でジャケットとネクタイでも送れば簡単なんだけど。

『恩人』というキーワードが、湊の心に待ったをかける。

 とりあえず、電話してみて空いてる時間があるか聞いてからにするかな。


 ***


 日曜日の18時45分。

 待ち合わせの料亭に15分前に到着したのにも関わらず、個室の襖の奥に、既に彼がいた。


「こんばんは」

「お待たせしてすみません」

「ん?……15分前だけど?」

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