偶然は突然に⑫

 腕時計を見せながら、私を気遣う彼。

 プロだ。完全に女性慣れしている。

さりげない仕草がいちいちカッコ良すぎるのが、なんか腹立つ。

だってあしらい方なんて散々仕事でこなして来たはずなのに、完全に彼の雰囲気に呑まれてしまった。これじゃまるで、新人女優みたいじゃない。


「ジャケット有難うございました」

「どう致しまして」

「それとこれは、ほんの気持ちです」

「あ、そーいうのホントいいのに……。なんか返って申し訳ない」

「いえ、本当に助かりました」


 『美しい』と称される微笑みをつくり、紙手提げを2つ彼へと手渡した。


 あまりあの日に関して深掘りしたくない。けれど、御礼はちゃんと言わないとならないから。


「今日も水玉柄なんだね」

「へ?……あ、はい。好きなんです、水玉」

「へぇ~」

「そういう久我さんも水玉ですよ」

「フッ。……だな」


 今日はドット柄のロングスカートを穿いている。

 彼は濃紺に薄水色の水玉柄のネクタイをしていて、お店のスタッフにペアコーデと勘違いされそうだ。

 そう言えば、あの日も水玉柄だったような……?


「もしかして、水玉好きですか?」

「…………ん」


 はにかむ表情が意外で、なんか可愛いらしい。

 自然とお互いに水玉柄が視界に入って笑みが零れる。


「義兄妹の杯でも交わします?」

「は?……あぁ、そうだな」


 ありきたりなジョーク。水玉繋がりという関係性。

 けれど、殆ど初対面の彼と食事をするのに、何かきっかけが欲しかった。


 グラスにビールを注ぎ、乾杯する。

 自然と和やかな空気に包まれた。


「1つ、質問していい?」

「はい」

「もしかしなくても、……女優の来栖 湊さん、……だよね?」

「フフッ、今頃?」

「あ、やっぱりそうなんだ。悪い、あまりテレビとか観ないから」

「そうなんですね。お仕事お忙しいですもんね」


 なんか緊張して損した気分。もっと刺々しい人かと思っていたけど、そうでもないみたい。

 砕けた笑顔がちょっとキュートで、思わずトクンと胸が跳ねた。

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