第34話 5人の女

 川口健太らが山口艦長の尋問を受けていたのと同じ時刻、天文台のある高野山に潜水艦乗組員を乗せたヘリが到着した。

「御厨聡美と申します」

 ヘリから最初に降りてきたのは、20代と思われる若い女性だった。名前の通り、どこをとっても日本人らしかった。ただ、身長は170センチを超える長身、黒髪のショートヘアーで知的な雰囲気を漂わせていた。

「よろしくお願い致します」

 御厨と名乗る女性は、深く頭を下げた。今時、日本人でもなかなかしない日本的な所作だった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 出迎えた渡部一志台長が丁寧に応対した。相手が男だと想像していたのと、予想以上に慇懃な態度を示したので、やや面食らった表情をしていた。

「鷲北瑶と申します」

 2番目に降りてきたのも女性だった。御厨よりは小柄で童顔だが、少し疲れた表情をしていた。そのせいか、御厨よりはやや年上に見えた。

 その後、次々とヘリから地上に降り立ったのは、5人全てが女性だった。


「全員が女性なのですね」

 渡部台長の言葉に、チームリーダーと思しき御厨聡美は、怪訝な表情をした。

「女であることが何か…」

「何でもありませんが、男がいないのは少々不思議な気がしたもので」

 御厨は首を少し傾げた。

「私たちの男女比は、女が9に男が1です。和歌山に上陸したグループもほとんどが女でした」

「9対1とは、比率が随分と極端ですね」

「ここ10から20年ほど、男女の出生率に大きな差異が生じて、このような男女比となってしまいました。貴国は違うのですか」

 渡部台長は頬を緩めた。

「正確な統計は見ていませんが、概ね半々ではないでしょうか」

 御厨は目を大きく見開いた。

「それは…大きな驚きです。男女比率が半分ずつとは」

 衝撃を受けた様子の御厨に、渡部台長が静かに言った。

「詳しいことは後ほど。まずは宿舎にご案内します。篠田」

 渡部台長は迎えの列の後ろに立っていた篠田かおりを呼んだ。

「ゲストを宿舎に案内して」

 篠田が前に進み出た。

「篠田かおりと申します。みなさんのお世話をさせていただきますので、要望がございましたら、遠慮なく申してください」

 そう言って篠田は会釈した。御厨は気を取り直した様子で頷いた。

「よろしくお願いします。篠田さん」


 5人の女性の持ち物は、それぞれディパックひとつだけだった。

「いつまで滞在するつもりなのだろう。随分と荷物が少ないですね」

 坂井星也は素朴な疑問を渡部台長にぶつけた。女性たちを宿舎に送り届けた後、2人は天文台に向かって歩いていた。

「首相には目的に関することを一切伝えていないようです。滞在期間について政府からは『成果が得られるまで』と聞いています」

「成果…ですか」

「そう、彼女たちが何を調べにここに来たのかは、通信で話せないとのことでした。さすがに、宿舎に荷物を置いた後は、何か話してくれるでしょう」

「心当たりはあるのですか」

「分かりません、皆目見当がつかないのです」

 渡部台長はそう言うと、口を閉じた。2人はしばらくの間、無言で歩を進めた。

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