第33話 尋問
和歌山ベースに送り届けられた川口健太と大北可夢偉の二人は、すぐにヘリで司令船に護送された。そこで、山口博行艦長から尋問を受けることになっていた。
「川口健太、出頭しました」
「大北可夢偉、出頭しました」
艦長室のドアの前で2人は大きな声を張り上げた。
「入り給え」
室内から山口艦長の声がした。衛兵がドアを開けると、山口艦長はデスクから応接セットに向かって歩いてくるところだった。
「座り給え」
山口艦長は革張りの応接セットを手で差し示したが、その言葉を素直に受け取るほど、健太と可夢偉は愚かではない。敵の捕虜になるという屈辱的な事態を経た兵士が、艦長室のソファーに座れるはずがないのだ。
しかし、山口艦長の態度は明らかに違った。
「緊張しないでよろしい。君たちはベストを尽くした。無事生還してくれて、私はうれしい」
山口艦長は穏やかな表情で言った。
「君たちが立ったままだと話は進まない。どうか座ってくれないだろうか」
そう言って山口艦長は微笑んだ。2人はやっとソファに身を沈めることにした。
「今回、君たちへの攻撃は、極めて特殊な事例として記録されることになる」
山口艦長は静かに切り出した。
「特殊な事例…ですか」
川口健太はようやくの思いで口を開いた。
「そうだ。先制攻撃はそれ自体、宣戦布告にも相当する重大な行為だ。そのことは大澤首相も相手にきつく言い渡した。だが、先方は最初から君たちを殺傷する気はなかったと主張している」
「それはどうでしょうか…誘導ミサイルは3発、完全にロックオンされていました。1発目は何とかかわしましたが、2発は直進してきました。回避不能と判断し、緊急脱出をしました。これ以上はない完璧な先制攻撃だと思いますが…」
山口艦長は眉間にしわを寄せ、頷いた。
「先制攻撃について、彼らは謝罪まで伝えてきている。君たちがプロなら必ず脱出する、殺す気はなかったと主張している」
「本当に間一髪でしたが…」
川北が言った。憮然とした表情をしている。
「脱出後、彼らの潜水艦に捕らえられたのだな」
「はい、パラシュートで着水後、すぐにボートで回収されました」
「その後は」
「艦内で監禁されました」
「身体の拘束はあったのか」
「それはありません。拷問の類は全くなく、食事も普通でした。不思議だったのは、我々への尋問すら全くなかったことです」
「ほう」
山口艦長が身を乗り出した。
「相手は我々に興味が全くなかったように感じました。文字通りのお客さんでした」
「やはりそうか」
健太の言葉に、山口艦長は大きく頷き、そして考え込んだ。
無言の時間が少し流れた後、健太が唐突に口を開いた。
「敵に関し、ひとつ気付いたことがあります」
「何だ、何でも良い、言ってみろ」
「はい、先ほどから艦長は『彼らは』と仰っておられますが、少なくとも我々が潜水艦内で接したのは、全て女でした」
「女?」
山口艦長は目をむいた。
「そうです、我々が監禁されていた潜水艦の乗組員はほとんどが女ではないかと思われます」
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