第31話 懇願
「待ってほしい」
大澤首相が御厨の言葉を遮った。
「あなたたちの要求に、我々が沿えなかったとき、どういう事態が引き起こされるのか。一応、それを聞いておきたい」
御厨は少しの時間黙った。しかし、すぐに話し始めた。最初と同じく落ち着いた口調だった。
「私たちは潜水艦で構成された国家。100発以上のSLBMを保有し、いつでも貴国の艦船に向けて発射できるよう照準を定めています。和歌山に上陸した1個小隊は、数時間以内に3倍、4倍の規模に増強する準備もあります。貴国の協力が得られなければ、実力行使に移るのみです」
「そうまでして、あの場所を占領する意図は何なのですか」
御厨はあっさりと言った。
「それをこれから説明します」
「人質の2人は? 彼らはどうなるのですか」
「人質? 今の私たちにその意図はありません。でも、貴国と戦争状態になれば、自然とそうなってしまうのでしょう。当然、捕虜として丁重に扱うことになりますが、戦況如何でどうなるかは分かりません。何度も言いますが、それは貴国の対応次第なのです」
大澤首相は御厨を諭すように話し始めた。
「この列島は地球のスノーボール化が始まる前、2000年以上前から日本国のあった場所。氷雪域が消滅した今、我々がここを自国の領土と宣言して何の差し支えがあろう。そこにあなたたちは突然現れた。我々のヘリを一方的に攻撃し、数カ月かけ苦労して築いた都市インフラを占領した。我々があなたたちに譲歩する謂れは全くないと言っても良いのでは」
「…」
「あなたたちは潜水艦を何隻所有しているか分からないが、我々にも少なからぬ戦力はある。侵略に対する防衛は基本的な権利です。しかし、我々が戦うのは不毛だ。それはあなたたちも理解してほしい」
御厨と名乗る女は即答した。
「首相の言われたことには完全に同意します。私たちに貴国と戦う意志はありません。あの陸地が日本国のものであることは明白です。領土を侵す気も私たちには全くありません」
「それではなぜ、こんなことを。突然の攻撃と領土への侵攻は宣戦布告ではありませんか」
「首相がそう思われるのは当然です。しかし、貴国に我々の要求を呑んでもらうため、やむを得ぬ行動だったことを理解いただきたい。地球の再生を実現するために、貴国の協力が今、どうしても必要なのです。しかもこれは時間との闘い、緊急事態なのです」
御厨は言葉に力を込めた。まるで懇願するかのようだった。
「貴国の力が必要なのです」
御厨は要求をもう一度繰り返した。大澤首相はひと呼吸置いてから口を開いた。
「地球の再生…と言われたな。それが3つ目の答えと関係あるのだろうか」
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