第27話 消えた船団
川口と大北の搭乗したヘリが国籍不明の艦船からミサイル攻撃を受け、撃墜されたとの情報はすぐに司令船に伝えられた。
「呉」から戦闘機がスクランブル発進したが、当該海域ではヘリの残骸はおろか、川口が視認した艦隊すら確認できなかった。
「安否は分からないのか」
大澤武首相は蒼ざめた顔色で呟くように声を絞り出した。
「はい、攻撃を受けているとの通信から撃墜までが十数秒しかありませんでした。脱出する時間があったかどうか…」
司令船の山口博行艦長が答えた。声色は沈痛だった。
ここ1、2カ月の間、日本が「領海・領空侵犯」と主張している海賊船などの出没事案が増えてはいたが、実際に攻撃を受けたのは今回が初めてだった。
衛星による監視能力が大幅に低下している現在、ヘリを攻撃した敵の実体すらつかめておらず、司令船はかつてない緊張状態に包まれていた。
「陸軍を動かす必要があるだろうか」
大澤首相が山口に訊いた。
「大阪には大隊を、和歌山にも中隊を配備すべきだと考えます。敵の上陸行動に備えるべきです」
「上陸行動か…」
大澤は小さく唸ったが、すぐに口を開いた。
「直ちに実施せよ。海上警備も最大級に増強すべきだな」
「すでに空母とイージス艦を回しております。我が国の有する最大の戦力を領海の警戒と上陸班の警護に充てます」
「敵を突き止める術はないのか」
首相の一言に山口艦長は無言で唇を噛み、俯いた。
「友好国にも援助を依頼すべきだな。我が国一国では対処が難しい」
首相の自らが発した助け舟に反応したのは、緑川哲補佐官だった。
「小惑星のインパクトで領土を回復できたのは、我が国だけではありません。各国で同じような侵略行為が横行してしまっては、世界の治安が守れません。国連にも訴えるべきかと」
「大至急そうしてくれ。だが、今の国連に抑止する能力があるのかどうか…」
大澤は眉を曇らせた。
川口らのヘリが撃墜されたとの一報は、しばらくたってから高野山にも伝わった。
「そんな…健太は…無事なんですか」
パイロットが友人とのことで、天文台長の渡部一志は真っ先に坂井星也へこの事態を伝えに来た。
「安否は不明だ。ロケット攻撃を受けているとの通信があった直後にレーダーから消えたらしい。ヘリの残骸は確認されていないが、撃墜されたのは間違いないようだ」
渡部は沈痛な表情で言った。星也はあまりに突然のことに現実感をつかめず、どこか上の空で渡部の声を聴いていた。
「攻撃したのは誰なんですか」
「分からない」
「海賊なんですか」
「呉の戦闘機が現場海域に到着したときには、船団そのものが消えていたようだ」
星也は首を傾げた。
「戦闘機がスクランブルで現場に到着するまでに、どのくらい時間がかかったんですか」
「良くは分からないが、20分か30分、その間くらいではないだろうか」
「そんな短い時間に、船が姿を消せるもんですかね」
「確かに…言われてみると不思議だな」
星也は腕を組んだ。
「サテライトがあれば、簡単に追跡できるのに」
「一刻も早く、ロケット発射場を整備しなくてはならんな」
渡部がそうつぶやいたとき、携帯端末の呼出音が鳴った。
「渡部だ」
渡部台長は応答した途端、表情をこわばらせた。
「分かった。すぐに司令船に報告しろ」
渡部はすぐに通話を終え、星也に向き直った。
「ロケット発射場が攻撃を受けた。けが人もでているようだ」
「健太たちを襲った連中と同じとみるべきですね」
台長は小さく頷いた。
「敵の狙いは何でしょうか」
「自分たちの動きを丸裸にする監視衛星を打ち上げられては困るのだろう。発射場建設を妨害するのが目的かもしれないし…」
渡部台長は語尾を濁した。
「それだけではないと…台長は思われるのですね」
「この数カ月間で上陸地点には都市のインフラが随分と整備された。千人規模の生活を支えることができるほどの街だ。それを根こそぎ奪おうとしているとは考えられないだろうか」
「敵の上陸…ってことですか」
「あり得るんじゃないか。司令船からは陸軍の1個中隊がこちらに向かっているとの連絡があったが、急いでもらった方が良さそうだな。今、我々は完全な丸腰だ」
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