第24話 観測開始
A班には星也も含めて比較的年齢の若い15人ほどの男たちが選ばれていた。太陽光発電に関連した資材はすでに全て運び込んであったが、人力でこれらを組み立てるのは並大抵の労働ではなかった。パネルを乗せる支柱はコンクリート製の土台に立てるが、その土台は1個が数十キロあり、大人でも数人がかりで運ばなければならない。支柱自体は比較的軽量なアルミニウム合金製だが、1本の長さが十数メートルにもなるので、とても一人で持ち運べるような代物ではない。こちらも複数人が力を合わせて1本ずつ運んでは土台に据え付けた。パネルを載せるための枠組みを準備するだけに、優に半日を費やした。
メインのパネル設置作業はさらに時間を要した。1枚の重さは20キロほど。手分けして四隅を持てば、それほどの重さではないが、何しろ枚数が多い。全部で100枚近くあるので、それらを1枚ずつ運んで枠組みに固定するのは、手間暇のかかる単純作業だった。
「あと20人くらいは人手が欲しいところですね」
坂井星也は現場監督の先輩に思わず愚痴をこぼした。周囲では作業に当たった全員が地面に腰を下ろし休憩していた。
「そりゃそうだが、ないものをねだってもしょうがない。今の作業は確かにキツいが、何事も最初が肝心だ。ここでしっかりと発電施設を整備できたら、後々の作業がスムーズに進む。俺たちのQOLも上がるしな」
現場監督は汗をぬぐいながら言った。
「下では電気が来るのをみんなが心待ちにしている。残るはもう少し、早いとこやっつけてしまおう」
この一声で、全員が立ち上がり、作業に戻った。
しかし、太陽光発電システムが完成したのは、日が西に大きく傾いたころで、日没までの時間はわずかしかなく、この日の発電量は微々たるものだった。
天文台班はこの夜、真っ暗な山の中でキャンプのようにランプで過ごす羽目になった。
初日はつまずいたが、翌日からは計画を上回るペースで作業は進んだ。天文台班が生活するためのインフラ整備では、飲料水を確保するための井戸を掘削した。これはかつて存在した寺院の配置図を基に地下水脈の在りかが特定できた。居住棟はヘリが空輸したプレハブに電源などを接続して、すぐに稼働できた。
基地の中心となる天文台の建設予定地は測量の後、小型のブルドーザーやショベルカーで地ならしをした。
1週間後には、大型の輸送へりが、天文台の構造材をごっそりと空輸してきた。天文台という設備の性格上、外壁など建物自体はさほど重要ではない。雨風をきちんと防げる程度でも良かった。何より重要なのは、その中にある設備だ。中央にはコンピュータで制御する完全自動追尾式の巨大な望遠鏡が鎮座する。わずかな振動でも観測に支障がでるので、少なくとも望遠鏡の土台部分は免震構造を採用する。地震などの振動を吸収するために地面を掘って巨大なバネを埋め込み、その上に土台を築くのだ。小型の工作機械があるとはいえ、主な作業は人力で乗り越えなければならない。天文台班はまず、免震構造の土台づくりに全力を注ぐことになった。
坂井星也をはじめ、天文台班は全員がまともな休日もなく、朝から晩まで働いた。天文観測というデスクワークに慣れたメンバーは連日、土を掘ったり、重い資材を運んだり、体を張った作業に従事した。
1カ月という月日が流れるのは、あっという間だった。そして、天文台は星也らが高野山に到着してから46日後、ついに観測活動を開始した。
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