第23話 化石林
上陸後の1カ月間、我が家だった海辺の居留地は、あっという間に遠ざかった。ヘリは荒涼とした丸坊主の山岳地帯を半時間ほど飛行し、標高約800メートルの盆地に着陸した。この一帯はかつて高野山と呼ばれていた場所だ。実際、高野山という山はなく、1000メートル級の山並みに取り囲まれた山上盆地に、高野山という名の仏教の聖地がかつて広がっていたのだった。
標高が高いこともあり、インパクト後の大洪水がすべてを洗い流してはおらず、この一帯には寺院の礎石や墓石、石畳の通路などわずかに文明の跡が確認できた。しかし、かつて生い茂っていたスギなどの樹木はことごとく死滅し、漆黒の化石状になって林立し、異様な光景を醸し出していた。
「ちょっと不気味な雰囲気ね」
ヘリから降りた篠田かおりは、辺りを散策しながらつぶやいた。天候は快晴だが、うっそうとした化石林が陽光を遮り、ひんやりとした空気が地表付近に漂っている。
「天文台をつくるには絶好の条件じゃないですか」
化石化した樹木の高さは20メートルを優に超えているだろう。坂井星也はモノトーンの威容を見上げた。空を突き刺すように聳え立つかつての樹木たちには、威厳すら感じられた。
小1時間後、天文台班32人全てが高野山に到着した。
「計画通りに作業を進める。まずは居住エリアの整備だ。A班は太陽光パネルの設置と調整、B班は電送路の確保。届いた電力で一刻も早く燃料電池を稼働させなければならない」
天体船の指揮官で、ここでは天文台長を任命されている渡部一志が、集まった32人を前に大声で指示を飛ばした。普段は寡黙なのだが、本番の任務に入ることで多少興奮しているのだろう。渡部台長の話を聞いていた上陸班員の後ろには、ヘリで事前に運び込んださまざまな資機材が整然と並んでいる。
太陽光パネルは、化石林の影響を受けない日当たりの良い広場に設けなければならない。だが、それはここから数百メートルほど山に踏み入った場所にある。
「さあ、A班、頑張ってね」
篠田が星也の肩をポンと叩いた。星也は太陽光パネルの設置が最初の任務となるA班で、篠田は発電装置の調整や食糧庫など主に居住エリアでの仕事が割り振られているB班という配属だった。
「了解しました」
星也はふざけて、わざと大仰な受け答えをして、集合場所に向かった。
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