第22話 高野山へ
和歌山・三重エリアでは第2陣350人の上陸を1週間後に控えた春の一日、坂井星也ら天文観測班の約30人が天文台建設任務のため、高野山に出発することになった。すでに、建設予定の山頂付近には、望遠鏡の部品やそれらを動かすための機械類、居住のためのプレハブ棟、発電設備などがヘリコプターで運び込まれ、星也らの到着を待っている。
現在の居留地から地上を歩けば、1週間以上かかる道のりだが、人の移動にも当然、ヘリの支援がある。ほんの30分程度で目的地に到着できる。
「よう健太、久しぶり」
星也らの移動を支援するヘリのうち1機は、パイロットが川口健太だった。
「星也もやっと本来の任務に就けるんだな」
「ああ、居留地の整備はほとんど終わったからな。あとは、ここに住む人たちが徐々に広げていけばいい。ところで京奈エリアはどうなんだ」
「あっちも順調だよ。京都も奈良も過去の遺物は全く残ってないけど、鴨川から淀川へと流れていく水路の痕跡だけはわずかに確認できた。今はそれを頼りに、京都と奈良の市街地があった辺りに2つのマチを新たにつくっているところさ。以前に倣って碁盤の目の街にするらしい」
「あっちの第2陣の上陸は、いつなんだ」
「3日前に終わったよ。一気に2000人くらいが上がったから、多少混乱している。時々、電気や水が足りなくなってるみたいだ」
「大阪港の整備も進んでいるのか」
「ああ、岸壁が3つできた。1万トンくらいまでなら直に接岸できる」
「それは大きいな。上陸がスムーズに進む」
健太は笑顔を見せて頷いた。
「岸壁ができると、俺たちの出番が減るから、正直助かっている。人員や物資をピストン輸送する船と陸の往復には飽き飽きしてきた」
「そうだろうな。もう何百回も繰り返してるだろうからな」
「何千回かも」
2人は声を合わせて笑った。
「京奈エリアにはどうやって物資を運んでるんだ」
「小型の船に乗せ換えて、川を遡ってる。明治時代まではそうだったらしい」
「1年も経たないうちに幹線道路の整備が終わる。そうなると、様変わりするだろうな」
「空港ができたら、もっと効率は良くなる。来年中にはできるらしいぞ」
「整備のスピードは想像以上だな」
「国を挙げて取り組んでいるからな。まっさらな場所に新しいマチをつくるんだから、やりやすいはずだ」
星也ら天文観測班は、5機のヘリに分乗し、高野山の頂上付近に向かった。ヘリポートを飛び立つと、これまで約1カ月にわたって休みなく整備してきたマチが眼下に一望できた。
上陸初日に水道を整備したプレハブ群の近くには、巨大な貯水池がすでに10個以上に増設され、水面が陽光を激しく乱反射していた。居住棟や食糧庫などのプレハブは大きく5カ所のかたまりに整備されていて、棟数は合わせると100を軽く超えているように見えた。その天井には太陽光パネルが載っているので、こちらも貯水池に負けず劣らず輝きを放っている。
港には小規模だが岸壁が2本完成していた。そのうちのひとつに1000トン規模の輸送船が接岸し、物資を陸揚げしていた。大小さまざまなトラックがプレハブ群の間をせわしなく行き来している。巨大なホバークラフトが行き来しているのも見えた。
物資の輸送がスムーズになったのは、居留地内に舗装道路網が出来上がったからだ。道路は市街地だけでなく、海岸から奥まったエリアにも続いていて、そこには将来、牧草地や農地になるであろう広大な平野が広がっていた。
星也は上陸初日、岩と泥に覆われた海岸線の荒涼たる風景を目にしたことを思い出し、隔世の感を味わっていた。わずか1カ月で、この地域は街の形になりつつある。このペースで整備が進めば、1年も経たないうちに万を超す人が住める都市へと発展できるだろう。
上陸前に篠田かおりに話していたドローンによる植樹作戦は、数回しか実施できなかった。それでも小さな山二つ分に数万粒に上る樹木の種子を蒔くことができた。数年後には成果が見えてくるはず。これは高野山でも取り組むことにしている。
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