第12話 セカンド・インパクト

 旧九州の南部を目指していた2つの小惑星は、坂井星也らが予想した通りの時刻に、地球の大気圏に突入した。

 大きさは1つ目の直径が推定120メートル、組成は事前の分析通り岩石型だったため、大気圏突入直後にバラバラとなり、破片の大半は大気圏内で燃え尽きたが、核の部分は地表から1000メートル付近まで残り、そこで爆発し最終的に消滅した。

 核部分の爆発規模は人工的につくられた爆弾に例えると、原子爆弾数発のレベルで、落下地点の周囲数平方㌔が高温、高圧の爆風にさらされた。この一帯に数十から百メートル近い規模で積もっていた氷雪域の大半がこの爆発により一瞬で消滅した。

 さらに、この小惑星は進路が重要だった。2次元的にみると、小惑星は北から南に向かってアプローチしてきた。つまり、流田教授らが指摘したように、九州から中国・四国地方を覆っている水が、南方にある海の方向へと流れる水路をつくる方向に、小惑星は降ってきたことになる。最終爆発に伴って、氷雪帯の上には旧九州から南に向かって幅10キロ、全長90キロの〝水路〟が掘られた形になった。

 そこに、2つ目の小惑星「桜島インパクト」がやって来た。こちらは直径が推定60メートルで、1個目よりはやや小ぶりだったが、核に鉄などの金属を多く含んでいた。そのため、核の大半を温存したまま、桜島付近にあった氷の壁に北側から突っ込んだ。

 厚さ数十メートルあった氷の壁は一瞬で消滅した。壁の中で溜まっていた水は南の海に向かって一気に奔流を形成し、一つ目の小惑星がつくった〝水路〟になだれ込んだ。大量の土石流は、周囲の氷雪壁を暴力的に破壊しながら、圧倒的なパワーで海に向かって猛然と流れ始めた。


「こいつは凄げえ」

 川口健太は眼下の情景を目にして、ヘリの操縦桿をぎゅっと握りしめた。

 最初のインパクトで蒸発した氷雪域はこの数カ月の間、雨水となって降り注ぎ、蒸発跡に大きな内海を形成していた。その一方の壁が壊れ、行き場を得た大量の土石流が移動を開始したのだ。

 健太のヘリは上空1000メートルから、その様子を撮影し、日本船団に送信していた。

「水路はどんどん広がっていきますね」

 副操縦士の山村がインカムで話しかけてきた。声が少し震えていた。

 山村が指摘した通りだ。南に向かった大量の水は最初、1個目のインパクトでつくられた全長90キロほどある水路に流れ込んだが、強烈な水圧は周囲の氷雪壁を徹底的に破壊し、ほんの数時間を経ただけなのに、水路幅は数倍に拡大していた。

「このままだったら、氷を全部融かしちゃうんじゃないですか」

「その勢いだな」

 真っ白な氷雪域の上には、土石流が記した跡が刻まれ、それはじわじわと広がりながら南下していく。それは上空から眺めると、リトマス試験紙に水が染み込んでいくかのようだった。

  この任務を終えると、インパクト地点の観測業務は「八重山」に引き継がれる。

「観測業務から外れるのが惜しいな」

 健太は独り言ちた。

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