第6話 ファースト・インパクト
小惑星群は予想された時間通りに地球大気圏に突入した。
晩冬の午後4時37分、もうすぐ日没という時間帯だが、空はまだ充分に明るかった。北半球、特に旧アジア・太平洋地域では、次々と落下する小惑星の描く軌跡を肉眼で見ることができた。
白熱化した最初のひとつが北の空に現れた。時を置かずして、49の小惑星すべてが姿を現した。小惑星本体は、秒速20キロを超える猛スピードで大気と猛烈な摩擦を起こしつつ、まばゆい光を放って暴力的な激しさで快晴の空を切り裂いていった。その後方には灰色の流星痕が水平に近い角度で長く続いている。それはまるで大きな筆で空に線を描いたかのようだった。49個の火球と流星痕はまたたく間に空を埋め尽くした。それはまるで流星雨のようだった。
「すげえな」
日本列島のあった場所から1000キロ以上南に離れている天体観測船の甲板では、坂井星也が空を見上げていた。しばらくの間、見とれていると、遥か上空から巨大な雷のような衝撃音が届いた。
「うっ」
空気全体を震わせる轟音に、星也は耳を塞ぎ、思わず膝をついた。鼓膜が痺れるような感覚があった。衝撃波は鏡のように穏やかだった海面を波立たせるほどの勢いがあり、船はしばらくの間、左右に小刻みに揺れた。
「坂井君、早く観測室に戻って。もう充分でしょう?」
船内通信装置から篠田かおりの声が響いてきた。どうしても大気圏突入の瞬間を見たいと懇願し、星也はしばしの休憩をもらっていたのだ。
「了解しました」
星也が小走りで観測室に戻ると、篠田が興奮した表情でモニターを凝視していた。調査船団は安全のため、衝突地点からみると水平線の遥か外側に位置しているのでインパクトの地表付近は直接見えない。しかし、上空の映像はかなりの高度からのものだったで、衝突エリアを広範囲に映し出していた。星也はヘリを操縦している川口健太を想った。
「49個のうち、46個は上空1000から1500メートルで爆発。残る3個は氷に激突したみたい。ものすごいきのこ雲が上がっているわよ、ほら」
上空から撮影された映像の画面の下半分は靄に覆われていた。恐らく水蒸気の雲だろう。小惑星の大半は上空で爆発したが、その熱と衝撃波は分厚い氷の大半を瞬時に昇華させた。厚さ100メートルの氷がいっぺんに蒸発したのだから、発生した水蒸気の量と勢いは想像を絶する。
さらに、衛星経由の映像に目を転じると、かつて西日本から九州だった地域に、3つのきのこ雲が上がっている様子が確認できた。2つは真っ白、これは水蒸気だけのようだが、最も西側にあるもう一つは黒に近い灰色をしていた。そして、その灰色の雲が最も巨大だった。
「灰色の奴は地表に到達したみたいですね」
星也が言うと、篠田は灰色のきのこ雲を指さした。
「相当な衝撃だわ」
「衛星映像でこの大きさですからね」
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