第5話 謎の通信
川口健太との通信を終えてすぐに坂井星也は船と船の間に交わした仮設通路を渡って通信船に赴いた。
野田和明は約束した通り、談話室で待っていた。4人掛けの丸テーブルが10台ほど並んでいる質素なラウンジだ。野田はその隅っこのテーブルについていた。野田のほかには誰もいなかった。
「何だよ、話しって」
星也は先ほどから感じていた不安を拭うかのように、単刀直入に訊いた。野田は何も言わずに、一枚のメモをテーブルに置いた。
「まずは、それを見てくれよ」
星也は椅子に腰かけながら、メモ用紙を拾い上げた。そこには数字の羅列があった。野田らしい几帳面な文字だった。
<49 31 34 130 33>
「何だよ、これは」
星也はメモを再びテーブルの上に置いた。
「うちの船で1カ月前から、この数字の羅列を時々受信していた」
「1カ月前から? この数字に意味があるのか」
そう言いながら星也はある事実に気が付き、息を飲んだ。
「49は小惑星の数、あとに続く数字は北緯と東経だな」
野田は小さく頷いた。星也は一瞬で全てを理解し蒼ざめた。
「1カ月前からと言ったよな。俺たちが小惑星群を見つける前に、どうしてこの数字が分かるんだ」
星也の剣幕に、野田は俯いた。
「分からない。最初は短い時間で何回か受信した。ここ1週間ほどは頻度が多くなった。毎時10回ほどだ。通信の規則性からみても、誰かが意図的に発信しているのは間違いない」
さきほど川口健太が発した言葉が星也の脳裏をよぎった。
<誰かの攻撃ってことはないよな…>
「数字の意味が分からなかったから、通信班では最初全く問題にしなかった。そもそも数字の羅列とか暗号電文は、吐いて捨てるほど地球上を飛び交っている。ジャンク通信のいちいち全部を詳しく調べてはいられなかったんだ」
「これもジャンクのひとつだと…」
「小惑星の話を聞くまではな」
「日本とアメリカ、EUの衛星を総動員して、さっきやっと確定した数字だぞ。それを何で1カ月も前から発信できるんだ」
星也が詰め寄ると、野田は首を小さく振った。
「分からない。ただ、ひとつ確実に言えるのは、この小惑星の飛来コースを事前に知っていた奴がいるってことだ」
「事前に知るって…」
「それこそ、誰かが小惑星を地球に向けて送り込んだとか」
「そんなバカな…それこそあり得ない」
「地球への衝突を狙ったのなら、ターゲットははなから明確だ」
「そんな技術を持った奴がいるもんか。小惑星を狙い通りに打ち込むなんて…。そもそも攻撃するつもりなら、事前にインパクト地点を教える訳がないじゃないか」
野田は頭を抱えた。その仕草は余りにも深刻だった。
「だって、そう考えざるを得ないじゃないか。通信は地球の外から来てたんだ。周波数も今、地球上で一般的に使われているものとはちょっとズレている」
「地球外…」
星也は次に続けるべき言葉を失った。
「小惑星群のことがあって、通信データを詳しく調べてみたら分かったんだ」
「宇宙って言っても、月や火星のコロニーとの通信もあるだろう?」
「火星は『失われた20年』から立ち直っていない。地球との通信はほぼ途絶した状態だ。もちろん、月との通信量はかなりあるよ。だが、2つとも違う。通信は小惑星帯の方角から繰り返し届いているんだ。1カ月前も、今日も」
「小惑星帯? 火星と木星の間のアステロイドベルトか、どうしてそんなところから数字が送られてくるんだよ」
野田は首を横に振った。眉間には深い皺が刻まれている。
「でも、間違いなく小惑星帯の中だよ、発信源は」
「上には報告したのか」
野田は頷いた。
「それにしても、とんでもない話だな。健太、大丈夫かな…」
星也がつぶやいた。
「健太がどうしたのか」
野田は川口健太とも星也を通じて友人関係にある。
「インパクト地点の調査班に『呉』が加わる。健太たちが上空から調べるらしい」
「そうか…」
野田はしばらくの間沈黙した。
「現場に…。何も起こらなければいいんだけど…」
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