第3話 7×7=49
「インパクト地点は日本列島付近だというのだな」
再開した対策会議で、大澤首相は報告に対して念を押した。
「主に九州から四国・中国地方にかけて、この50個ほどの小惑星が落下するとの予想です。これは日本だけでなく、アメリカやEUの観測からも同じ結論が導きだされています」
説明役は首相補佐官の緑川だった。緑川が大学で物理学を学んでいたことを大澤は思い出していた。
「被害は…我々船団への影響は」
「現在、氷雪域は平均で北緯25度付近まで南下しています。東シナ海だと台湾付近が前線です。日本列島は八重山の一部と小笠原諸島を除いて、全てが氷雪域の中にあります。九州、四国だと氷の厚さは平均で100メートルを超えております。インパクト、あるいは空中爆発の衝撃で氷の大半は瞬時に蒸発すると思われますが、地表までは届くかどうか。海洋上ではないので津波の発生もありません」
大澤は大きく頷いた。
「では、津波に備えて船団を避難させる必要はないということだな」
「その通りです」
会議室全体に安堵の空気が満ちた。特に、司令船の山口博行艦長はあからさまにほっとした表情をみせた。
「正直言いまして、高さ20メートル以上の津波が発生すると言われたら、どうしようかと思案しておりました。司令船は復元率100%ですので問題ありませんが、化学機械船やタンカーは相当厳しい。居住船だって怪しいもんです。そもそも我々の船団は嵐や津波を想定して造られておりません。ここ十数年、海は全く穏やかなのですから」
山口艦長の言葉は通常だと問題発言となるかもしれないが、当面の危機から解放された出席者は気にも留めなかった。
「だが…」
しかし、大澤首相の一言で、再び会議室の空気は引き締まった。
「小惑星の配列というか、形状というか…それに不思議な観測内容が含まれているとのことだが」
「はい、それは報告を受けております」
緑川補佐官が再び手元のパッドを操作した。会議室の大画面に規則正しい小惑星の配列を映し出したレーダー画像が表示された。
「小惑星の数は49ありました。直径はそれぞれ30から50メートル。X線望遠鏡による分析では、鉄などの金属が主成分と推定されるとのことです」
「インパクトの衝撃が大きい奴だな」
緑川補佐官は頷いた。会議の出席者は説明の続きをじっと待っている。
「不思議と言いますか、信じられないのは、観測衛星によると、このように小惑星群が縦7列、横7列と正方形の陣形をとっているとのことでした」
「あり得ない」
出席者の一人がつぶやいた。学識経験者として呼ばれた物理学者だった。
「その通りです、博士。正方形は等速、等間隔だから形成されるのです。宇宙でそのような状態が自然に発生し維持される確率はゼロではないが、極めて低い。ほとんどあり得ないといってもよいレベルであります」
「どうしてそのようなことが…」
大澤の発した疑問に答えられる人間はここにはいなかった。
「分かりません。ただ、その正方陣を形成した小惑星49個が、あと8時間後に日本列島の西日本があった場所に次々と落下してくることになるのです」
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