第3話 ほ……本人です!!

「くそ……手こずらせやがって……!!」

「やだぁ…………いやだぁ…………」

「俺だって嫌だよ……!!」


【あ、戻ってきた】

【白さんガチ泣きしてるんだけどw】

【今更だけど普段はホラー系嫌がってたもんな……】

【男の方誰?】

【はよ気づけ】


 椅子に座らせた幼馴染の前で俺は息を整えていた。

 すでに半泣きの雪奈を前にして俺は真剣に言った。


「逃げるな。お前が今回のコラボやるって決めたんだ。苦手なのにホラゲーやるって承諾して時間割いて準備したんだろ」

「……それは」

「今更逃げるなんて許さん。そもそも俺を残して逃げんなや!!」

「だって本当に怖いの!!」

「良いからやるぞ!!始めた以上、最後までやるしかねえんだから!!ファンとコラボ相手方裏切る行為だぞ!?もう一回覚悟決めろ!!」

「う………うん、分かった」


 そうして二人して画面に目を向けた瞬間。


【なんかカッコいい事言ってるw】

【熱血漢w】

【中身入れ替わりはアウトでは?】

【草】

【w】

【白さんと距離近くね?】

【知り合いっぽいね】

【言ってる奴が代行してたんだよなぁwww】


「……」

「……」


 大量に流れるコメント。

 今までのやり取りの全てが、マイクを通して配信に流れてしまっていたと気付くのに時間はかからなかった。

 それはコラボ相手の陽彩さんにも同様のこと。


『えっと、白、さん……?』


 深呼吸。

 どうする、と目で雪奈に問いかけるも、こちらは顔を真っ青にしてパクパクと声すら出せない状況。

 俺だって慌ててしまっていた。

 だからこんな結論に至ってしまった。


「……ふっ、ついにばれてしまったか」


【お?】

【急に何?w】


 声の質を意図的に変える。

 俗に言う、イケボに。

 ぼんやりとした言葉遣いではなく、自信過剰な言い回しに。

 低音を意識し、尊大な印象を受けさせるような。

 雪奈の代わりにマイクの前で声を出す。


「実は私普段はボイスチェンジャーを使って女性を演出していたんですよ……今日は少し調子が悪くてですね……」


『何言ってるんですか……?』


【嘘だろw】

【確実な嘘で草】

【嘘下手くそかよ】

【w】

【即バレはっや】

【陽彩さん全く信じてねえじゃんw】

【見苦しい】

【はよ自首しろ】


 ……やっぱりそうなるか。

 マイクに口を近づけて、静かに息を吸う。

 確か、こんな感じかな。


「何のことかな?(イケボ+マイク至近距離)」


『いやあぁぁ!?』


【おんっ……!?】

【耳】

【やめろぉ!!w】

【やりやがったw】

【あっ……イグ】

【普通にイケボで草】

【ヤバいもう一回お願いします:¥1000】

【耳が孕みそう……!!】

【最高:¥500】


 反応からして常人7割変態3割か。

 すごいな俺の幼馴染(※正気を失っています)。


「では、行かせていただこうか。すまないがスパチャ読み上げとかは今回は無しで」


『ちょ、ちょっと待ってください!あなた誰なn』


「じゃ、行こうか(イケボ+マイク至近距離)」


『ん゛っ!?』


 陽彩さんには申し訳無いがイケボで封殺。

 舐めるなよ、同級生から声だけはイケメンだねと言われたんだ今更躊躇しない。

 ポーズ機能で停止していたホラーゲームを再び再開する。

 ゲーム状況としては全体の三割しか終わっていない。

 だがここからすんなり終わるわけもない。

 覚悟を決めてコントローラーを操作。


「おっ、作り込み良いっすね。特にこのシャーレのうおっとぉ!?中身空っぽで良かったぁ!!」

「この階段よく壊れなぁっはーい!!耐久性検査しとけやっはーい!!……二連続かい!?容赦ないねー!!」

「こういうなんか出そうな廊くぉい!?何だよ無人車椅子かよ!!……無人じゃん!?え、怖っ!!」

「人体模型……人体模型?アイエエエ!!模型!?模型ナンデ!?って動かんのかーいぃあ゛あん!?動くの!?」


【え、反応面白w】

【あれこれはこれでありか……?】

【イケボおなしゃす!:500】

【この人めっちゃ喋るなぁ……w】


「ん?ああ、79ネギさんスパチャありがとう。イ、ケ、ボ♪(イケボ)」


【違うそうじゃ無いw】

【イケボだけどイケボじゃねえ!!】

【イケボお願いされてイケボを言うって何なん!?】

【チャンネル登録しましたw】

【白さん早く戻ってこい!チャンネル乗っ取られてるぞw】


 操作しようとした瞬間にひび割れる試験管。プレイヤーが乗ると軋んだ音を立てる錆びついた階段。一人でに動く車椅子。一つの部屋に沢山並んでいる人体模型。イケボ言えと言われたので『イケボ』と言ったら違うと言い出すコメント欄。

 カオスだな、間違いない。

 ジャンプスケアは勢いで通過。

 シンプルに怖い道中は独り言を呟き続けることで恐怖を緩和。

 無理矢理エンディングに到達させた時、ようやく雪奈が声を出した。


(ごめん……ありがとう……)

(気にすんな。交代だ)


 一応それっぽく言って交代するか。


「んんっ、ボイスチェンジャーの調子が戻った。時を戻そう」


『お、お疲れ様です……?』


【はいはいw】

【良かったねー(棒)】

【最後!最後に一言!】


 雪奈と場所を交代して口を閉じる。

 これ以上はやり過ぎになる。

 ゲーム画面を閉じた後、陽彩さんと雪奈こと白さんが二十分ほど雑談をして配信枠を閉じる事になった。


『コメント欄、考察がすごいけど……今回は終わりにしたいと思います。視聴者の皆さん、おつかれー。白さんも今日はありがとうね』

「視聴者の皆さんありがとうございました。陽彩さんもありがとうございました!またねー!」


 コメント欄では俺が誰か、という話題が出続けていたが枠が終了した事でその論議も終わりを迎える。

 ようやく、終わったか。

 その時だった。


「……水無人」

「ん?どうした?」

「先に謝っとくね。本当に、ごめん」

「……?ごめん、話が見えない」


 雪奈が申し訳なさそうに向けてきた携帯の画面。

 雪奈ではなく、白雪白あてのメールにはこう書かれていた。


『後日のオフ会の際、今日の彼も連れてきてください。言っておきたい事があります』


「……」


 これは、確実に、怒られるやつだ。


「……骨は拾っといてくれ」

「いや死なないでよ!?」


 ああ、胃が痛くなってきた。

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