第2話 ホラーゲームです!!ホラーゲームの実況です!!

「うし、んじゃ最終確認しとくぞ」


 モニターを前に幼馴染の右側に座った俺は今一度言葉に出して確認した。

 現在時間は配信開始30分前。

 既に三桁程度は待機しているのを見てやはりこの幼馴染は凄いな、と思いつつ。

 コラボ先の相手の待機人数を見て宇宙猫になりつつ。

 画面に映し出された廃病院を舞台にしたゲーム画面を見た。


「俺は出来るだけ声入れないように気を付けて、お前がリアクションを取る。で、クリアした後は黙る。これでいいな?」

「訂正。出来るだけじゃなくて絶対に声を入れないようにして」

「はいはい」

「よし……覚悟出来た」


 そうして配信が始まった。


「本日はよろしくお願いします!白雪白です!よろしくね!」

『赤烏陽彩です。今日はよろしくね』


 雪奈の分身とも言えるVtuberとしての立ち絵、白雪しらゆきしろが画面左下に映し出された。

 髪色、目の色、服装の全てが白色。

 顔だちもキリッとした美人。

 どことなく雪奈自身にも似ている。

 コラボしているのは赤烏あかがらす陽彩ひいろというVtuberだった。

 雪奈の立ち絵を書いた人と同じ人が立ち絵を担当しているらしい。

 勝気な印象の女性の立ち絵であり、声からも自信が感じられる。

 髪や目の色も赤の派生の色。

 そして胸がでかい(←ここ重要)。

 とはいえ俺は声を出してはならない。

 隣で雪奈がコラボ相手と話し、俺は終始無言のまま画面を眺めて待つ。


「では、さっそく企画を開始します!!」


 その言葉を合図に、ホラーゲームによる勝負が始まった。

 まずはコラボ先、陽彩が先にプレイした。

 流石というか、何というか。

 事前に調べてみたところ、とんでもない相手だと分かった。

 ホラーゲームに異常なほど強い。

 ジャンプスケアを笑顔でスルーし、ゲーム内容を楽しそうに話す。

 鋼の心臓を持っているのでは。

 そうまことしやかに囁かれている。

 今回も非常にあっさりとクリアし、全く叫ばなかった。

 平均クリア時間一時間三十分のところを一時間でクリア。

 唯一反応を見せた時はゲームの出来が良くて驚いた、ぐらいのことだった。

 それはコメント欄が証明している。


【早っw】

【さすがホラー耐性MAX】

【草】

【少しは怖がってほしいなあ……】


『じゃあ、次は白さんの番ね』

「……は、はい」


 チラリと向けられた月奈の視線に俺は無言でコントローラーを手に取った。

 ホラーゲームが苦手な人間。

 そして、俺だって得意というわけじゃない。

 結果、こうなる事は分かっていた。


「イヤぁぁぁ!!!!」

「あ゛っ…………」

「ひっ…………ふー、ふー、あ、ぁ」

「キャアアぁぁぁぁぁああ!!!!」

「ひぎゃぁぁあ!!!!」


 腐った死体。切り落とされた四肢。瓶の中に残された眼球。倒れる机の上の写真立て(現実)。突如現れるジャンプスケアの数々。

 全てで雪奈は叫び声を上げた。

 隣で雪奈が叫ぶたびに一度動きを止めて俺も呼吸を整える。

 声が出ないように気をつけていても声は出そうになる。

 まあ出たとしても雪奈の叫びがかき消しているだけなのだが。


『怖がってる割にドンドン進みますね……?』

「ひっ、ひっ、ひぅ、ひっ、ひっ、ひぅ」


【何だその呼吸w】

【白雪流呼吸法】

【何かおかしくね?本当に白さん操作してる?】

【確かに】

【それな】

【言動と操作が一致してない気がする……】


 月奈が叫び声を上げる度に手を止める。

 正直俺も驚く度に休憩を挟まるのでいいのだが。

 俺は声出せねえのに好き放題に叫びやがってこの野郎とも思った。

 その時だった。


「も、もう無理!!私部屋出るから後お願い!!」

「は?」

「あっ、腰、抜けてる……!!」


 椅子から転げ落ちた雪奈がモニターの前から逃げ出した。

 同時に画面内の立ち絵が真顔になって動きを止める。

 必死に部屋の扉へと這っていくその姿に、俺は思わず声を出してしまった。


「はあ!?お前ふざけんなよ!?」


 絶対に逃がさない。

 この時の俺はホラーゲームによる恐怖と勝手に逃げ出した雪奈の姿で完全に感情がバグっていた。


【へ?】

【what?】

【え、誰かいんの?】

【今男の声が……】


「やだ!!やだぁ!!私もう見たくない!!」

「おい待て逃げるんじゃねえ!!お前だけ逃げるなんざ許さねえぞ!!」

「いや!!離して!!もう腰抜けてるの!!立てない!!もうやだぁ!!」

「立て!!戻って来い!!」

「やなの!!いや!!いや!!いやあああ!!」

「このっ……!!大人しくしろっ!!」


 逃げ出す雪奈の体を引き止める。

 かろうじてドアのノブを掴んだ雪菜の手にはとんでもない力が込められていた。

 まさか自分が力負けするとは思ってもいなかった。


「おい抵抗すんな力抜け!!」

「お願い離して!!もう嫌!!」


『あ、あのぉ……』


【え?】

【何これw】

【DV彼氏に監禁されてる?w】

【需要ありますねぇ……】

【ASMR希望】

【男の方いい声してるね♡】

【ホモが沸いたぞ】


「やめて!!無理矢理は嫌!!」

「お前が逃げるからだろうが!!」

「お願い!!外、外に出して!!」

「はぁ!?逃がすかよ!!」

「いやぁ!!腰掴まないで!!もう限界、無理、無理だから!!」

「覚悟決めたって言ったよな!?」

「もう体力も無いの!!私、本当にこれ以上は無理だからぁ!!」

「最後まではやるぞ!!」

「嫌ぁぁぁぁああああ!!!!」


 何とかドアから雪菜を引き剥がす事に成功した。

 やったぜ。


【えっ事案?】

【何これ】

【犯されてる?w】

【ホラゲ実況(笑)】

【通報】

【通報しますた】

【通報したw】

【通報w】

【未成年禁止だったりする?】

【BANされてもおかしくねえw】


『えっ…………えっ?』


【陽彩さん壊れてるw】

【人間の方が怖いとはなぁ……w】

【壊れた陽彩さん……イイネ】

【陽彩さんの枠から来ました。何この状況】


「おらさっさと戻れ!!」

「嫌だぁぁぁ!!!!」

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幼馴染の配信手伝ったら何か……何か、うん。 黒奏白歌 @kensaki_kagura

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