3-2 「狼の仔」

https://kakuyomu.jp/works/16816927861045852504


◯タイトル


久々の超短いタイトル。パッと出てくるイメージは狼に育てられた人間の子供。もののけ姫。それが主人公か、あるいは主人公がその狼の仔に出会うのだろう。

ファンタジーらしい題材だが、SNSで人間の赤子に対して世話を焼くような動きをする犬の動画とか見ていると希望込みでちょっとありえない話じゃないんじゃないかなって思っちゃう。

過去に狼と犬の混種を見学したが、狼の血が90%越えで怖さが結構あった。でも撫でさせてくれてよかった。


◯あらすじ


狼に育てられたわけじゃ…ないな。狼に憑かれているみたいなのが正しいか。

王道ファンタジーの幕開けのようで飲み込みやすい設定だが、あらすじのこの文だけだと狼が憑いているのが少年とも傭兵ともとれて迷う。タイトルからして少年の方?

本作は別作の前日譚らしいものの、単体で読んでも問題ないと書かれているので、それならまあ大丈夫だろう。


◯書き出し


追われる少年の場面。

おなじみの定番書き出しだが、最初追うモノの姿は無く声から出てきて、嘲るように、鳥とも獣ともつかぬという表現が目を引く。得体の知れない不気味さが際立ち、姿を現してからの女の髪がまとわりついているようなという表現は鮮明な不快さがあって凄く良い。主人公と同じ感覚を持てているという臨場感がある。

自分が進行形の字書きだったら、頭に強く残ったこの表現を後々自分で考えたものだと勘違いして使っていたかもしれない。危ない危ない。この時点で表現力とそれを生み出す日常の観察力が光っている。


◯1話


助けてくれた2人の男。

魔物という概念はファンタジーに浸透しきって説明する必要もないようなものだが、獣は哂わないが魔物は哂うという一文。これが邪悪さを端的に印象付けていて、共存できず息の根を止めるしかない相手だと理解させてくれる。あらすじで触れた分でもそうだが、読者に感覚を持たせる技量が高い。

あまり頑張らずに読みたい身としては助けに来た2人を主人公と合わせてイメージするのは楽に読めるギリギリのラインだが、助けに来た2人が軽快な会話を見せてくれるので空気が変わり、緊迫感に満ちたシーンから話が先へと回り出した実感が得られる。よくある流れの1話目ではあるが、積み重ねた実力を持つ人が書く1話目だ。


◯3話まで


会話の中で自然に疑問が解消され、その過程にある正しさと納得の話にはそうだよねという同意しかない。その話の中でも戦乱と人攫いの大小の規模で世界の荒れ具合に触れられ、スピンオフ的な話からの読み始めである割に舞台に入り込みやすくてありがたい。

3話にて一晩明けたところまでなのでおそらく物語の要点には届いていないし、主人公がこの先どういう方向に向かっていくのかも摑めていない。そのため展開自体に強く興味を惹かれているわけではないのだが、物語の始動感はあり何より登場人物が持っているだろう感覚を読者にも与えてくれる表現力が楽しかった。

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