第27話 衝突する大魔法

 極大の二つのエネルギーが衝突する。

目を覆いたくなる眩い閃光が夜空を侵食する。

雲一つない空から、飛び散った大量の雨が降り注ぐ。


光と水の超魔力が互いの力で敵を貫かんとせめぎ合う。


「うわああああああああああああああ」


意味わかんない。

なんでこんなバカげたことなってるんだ。

何事にも限度があるだろう。

どう考えてもやりすぎだって。


「ぬうわあああああああああ!!!」


でも、負けたら終わりだ。

気合だ。

こうなったら気合との勝負だ。

絶対に負けるもんか。


「消えうせろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「GUUAAAAAAAAAAAAAA!!」



力の衝突は衝撃を生み、周囲の環境を一瞬で崩壊させていく。

地面はめくりあげ、朽ちていた木々が、その太い幹からは想像もできない身軽さで吹き飛んでいく。


ビリビリと空気が振動する。

耳がおかしくなりそうだ。



「っぐ……このままだとマズイですね」


悔しいけれど、向こうの方が威力は上らしい。

少しずつだが、押し返されている。


負けるのか?

こんなところで?

やっと、師匠から試験の合格をもらったのに。


ギランさんとタマモさんにもまだ話したいことが沢山ある。

僕はあの二人のおかげで試験に挑む勇気をもらえた。

これまでの感謝を伝えようと思っていたのに。


アリエルだって、僕がいなくなったら泣いちゃうかもしれない。

辛い時も、楽しい時もずっと僕のそばにいてくれた大切な友達だ。

悲しい想いはさせたくない。


クラウは……まあ、なんだかんだ元気にやっていきそうだからムカつくな。


それに、師匠達を驚かせようと思って、ずっと準備してきたアレもまだ披露してない。


やり残したことが沢山ある。

もっと色んな魔術を見てみたい。

妹と母上にも会いたい。

屋敷にいた時は、心配させてごめんねって謝りたい。

タマモさんがつくった美味しいごはんをもっと食べたい。

ギランさんの、生まれ育ったドラゴンの里での自慢話もっと知りたい。

酔って機嫌がよくなった師匠が、手放しで僕をほめてくる、親馬鹿な賞賛をもっと聞きたい。


屋敷でくすぶっていた時には考えられないくらい、いまの僕には生きたい理由がこんなにも沢山溢れている


そうだ。

こんなとこで死ねるか。

魔法や魔術は、無限の可能性を秘めている。

足りないのなら工夫すればいい。


「うおらぁぁぁ魔術師なめんなっ!」


術式を再構築。

形状を放射から、うねりへ。

水が螺旋をえがく。

風の魔術螺旋の応用だ。


「うぬぬぬぬぬっ」


『廻れ、廻れ、蒼き流れを抱く水の乙女よ その回転する力で全てを包み 破壊と再生の輪を描き 水の輪を成せ 水性魔術第九・旋渦ブルー・マエルストロム


水流が渦を巻く。

最初は小さなうねりだったそれは、次第に全体へと広がり竜巻のように回転をはじめる。


ゴリゴリと怪物の光線を削り散らしていく。

与えたのは貫通力。

既存の魔術にさらに変化を与える。

だれにも教えてもらってない、僕のオリジナルスペル。



「いっけええええ!」


水の顎が光を貫いた。

極大の破壊光線が霧散する。

そして、水の勢いはそのままに、怪物の右肩をまるごと食い破った。


「どうだみたか、ばっかやろう!」


肩の付け根が消し飛んで、怪物の片腕が吹き飛ぶ。

致命傷だ。


ズドンっと腕が地面に落ちて、地響きがする。


勝った!

勝った!

こんな化け物相手に僕は勝ったんだ。


「よっしゃぁぁぁぁ!」



興奮で手が震える。

いまの一手は、まごうことなき特級の大魔術だ。

魔術は生死の狭間でこそ開花する。

まさにその通りだ。

まさか、本当に成功するなんて。

ふふふ、やっぱり僕は魔術の天才かもしれませんね。



「ふう、流石に疲れました」


魔力にはまだ余裕がある。

とどめをさすには十分だろう。























キュイイイイイイイイイイイイイイイイン











「え」



頭上に巨大な光が差す。

片腕を失った化け物が発光していた。



「う、うそだろ」


それは一度みた光景だった。

化け物の身体が光り輝き、一点にエネルギーが収束されていく。


「……二発目」


先ほどの威力とまったく遜色のない破壊の予感。

さらに、光は失った肩にも集まり、みるみると修復していく。


「っ、おかしい! ズルだ! そんなの卑怯だぞ!」


なんだよそれ。

誰の許可を貰って、そんな力が許されてんだ。


慌てて『だい9』の準備を始める。


(っく、だめだ。周辺の水が足りない。さっきの魔術で水のほとんどをとおくまで飛ばしてしまった)



僕の水は化け物の肩を貫き、はるか地平の彼方まで飛んで消え去っていた。

この環境からはすでに、限界まで水分を吸収したあとだ。

あれに対抗する術はもうない。


なにもしないのか? とで言いたそうに化け物が冷酷に見下ろしてくる。

僕がなにも反応を示さないのをみて、つまらなそうにその力を解き放った。


(ぃ嫌だぁ。死にたくない)


戦いの中で死ぬこともあるじゃないんかと想像したことはある。

実力の結果なら、仕方ないと思っていた。

でも、実際に死を目の当たりにすると、そんなちっぽけな覚悟なんて消し飛んでしまう。


(あきらめないっ、たとえ無理だったとしても、その最後の瞬間まで‼)


最後の力を振り絞ってアイツを倒そう。

そう決意を固める。

けれど、その必要はなくなった。


「まったく、油断するのはお前の悪いくせだ」



黒髪黒目の気だるげな青年が、

僕の師匠が、そこにいた。


そして、傷ひとつない綺麗な指先をパチンと弾き、言った。


光闇カオス魔術第十三・摂理への反逆タイム・ストップ



風がやんだ。

化けものが固まった。

破壊の光線が宙でとどまった。





世界が静止した。



――――――――――――――


あとがき


新連載始めました。

是非見に来てくださるとありがたいです。

URLから飛んでください。


キャッチコピー

助けた少女に付き纏われて困ってます。


タイトル

お世話好きの委員長さんが退学したい不良の俺(人生2週目)を通学させようとする話


https://kakuyomu.jp/works/16818093090165813206

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