第20話 一年後、適応したアジュール

 サバイバルを始めて一年が過ぎた!

いやー最初はどうなるかと思いましたけど、案外なんとかなるもんですねぇ。


あんなに強かったデス・サラマンダ―も、最近では僕を見かけると逃げ出してしまいます。たぶん、ちょっと前に巣を襲撃したのがいけなかったのかなー。


どうしても唐揚げが食べたくて、単騎で50匹位いるサラマンダーの巣穴に突撃したんだ。でも、どうせ食べきれないから1匹狩って逃がしたら、それ以来避けられるようになってしまった。


「困るんだよね。定期的に唐揚げがたべられないと」


黒の樹海は資源の宝庫だ。

肉は魔獣が死ぬほどいるし、綺麗な花や、食べれる植物も沢山生えている。


(みてみて、キレイなお花さん)


アリエルが、僕が育てた鑑賞用の黄色い花に風を吹きかけて遊んでいる。

仮拠点にしている洞窟を見栄え良く飾る余裕もでてきた。


「ギャオオオオオオオン!」


洞窟の外から雄たけびがきこえてくる。

なにかいるようだ。

外に顔をだしてみると、巨大な猿の魔獣が、胸を叩きながら月に向かって吠えていた。


こいつは、この森でも相当上位の個体だ。

戦えば間違いなく死ぬだろう。


……一年前の僕であれば。


「君、うるさいですよ」

「!?」

「人の家の前で吠えないでください」

「うっほ」

「近所迷惑です」

「う、うほ」


 厳しく注意すると、猿は自分の頭を撫でながら頭を下げてきた。

妙に人懐っこいのは、数か月前に魔術でボコボコにしたら大人しくなったから。最近では果物なんかを運んできてくれるいい奴だ。



 この森で苦戦することは少なくなってきた。

まだ勝てない相手もチラホラいるが、一方的にやられるなんてはない。

最低でも相打ちにはもっていける自信がある。


「月が綺麗で興奮したんですか?」

「うほ」

「……たしかに、今夜は満月。とても美しいですね」


せっかくなので猿の体をよじ登り、肩に座って空を見上げる。

いつのまにかアリエルもついてきていた。


皆でまんまるな月を見る。

できれば、タマモさんも一緒に見たかったな。彼女は月が綺麗な時は、よくこんな風に僕を誘って一緒に夜空を見上げたっけ。


ギランさんはこういうのは興味ないから、一度も付き合ってくれなかった。


師匠は……いつも酒ばかり飲んでたな。


もう一年も会ってない。

完全にホームシックだ。


師匠は僕に何も語ってくれない。

どうして、異世界にきたのか。

500年間なにをして生きてきたのか。


それだけではない。

絶壁と呼ばれる謎の場所。


黒の樹海には、絶壁と呼ばれる境界線が存在する。樹海の至る所に巨大な裂け目があり、向こう側とこちら側をつなぐ橋はなく、そこに何があるのか僕は知らない。調べることも禁止されている。


きっと師匠達に秘密はそこにある。

これまでは言いつけを守ってきたが、教えてくれないなら、こっちから調べるまでだ。


「よし、行ってみるか!」

(わーい)

「うほ」





 絶壁の近づくと、猿は突然足をとめた。

突然身震いをして、座り込んでしまった。

どうやら行きたくないたらしい。

アリエルも


(アジュールこわいよぉ)


と言って、猿と一緒に残った。

しかたなく、僕は一人で進む。


「わあ、あらためてみると絶景ですね」


幅にして100メートルくらいか。

森と森を分断するように、大きな亀裂が走っている。

向こうの山には大きな山がいくつか連なり、山脈を形成している。

崖の下を覗くと、相当深いようで、底がみえない。


「下にはなにがあるんだろう」

「なにもないよ」

「いやいや、そんなことありません。絶対なにか隠してるに違いありません……ん?」


振り返ると黒髪黒目の青年……一年ぶりの師匠がいた。


「ええ!? どどどどうしてここに」

「お前が絶壁に近づいたからだろう」

「なんで分かったんですか?」

「はあ、学ばないな。俺は森の中ならある程度探知できるのを忘れたのか?」

「……まあ、知ってましたけど」


完全に忘れてた。

そういえばこの人そんなこともできるんだっけ。


「あの師匠」

「なんだ」

「僕は本当にこの森をでないといけないんですか」

「……そうだな」

「やっぱり嫌です。僕はずっと師匠や皆と一緒にいたい」

「だめだ。お前はいずれここを出ていく。俺達に付き合う必要はない」


そういうと、師匠は森の中にある山を遠い目でみつめた。

どこか悲しそうで、どこか懐かしそうに。


「アジュール。家に戻ってこい。準備は十分だ。明日、最終試験を行う」

「……はい」



明日、僕の最後の試験が行われる。

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