第15話 兄弟の邂逅
ギランさんにお願いして、僕は黒の樹海の入り口付近までやってきた。
ギランさんは小腹が減った言い、僕を置いて食料探しにでかけてしまった。
それで、僕は兄上がいる場所まで歩いて向かったのだが……現在、ただひたすらに困惑している。
兄上を発見することは出来た。
彼は大勢の兵士を引き連れて、まるで盗賊団を討伐するような戦力が揃っている。
だというのに、兄上はへっぴり腰で森の中に入ろうとせずに、か細い声でひたすらに僕の名前を呼んでいる。
「おーい、アジュール。お兄ちゃんだぞー、で、でておいでー」
……あの人は何をやっているのだろうか。
いや、わかるよ。
多分、黒の樹海に入るのが怖いんだよね。
でもさ、腐っても次期当主だというのに、そんな態度を部下に見せて大丈夫なんだろうか。恥ずかしくないの?
「あ、兄上。アジュールです」
可哀想だったので、声をかける。
すると、兄上は僕の顔を見た途端に、ほっと表情を緩ませ安心した素振りをみせる。かと思えばすぐにキッと睨み怒鳴りつけてきた。
「貴様ッ、この俺様が呼んでるのに来るのが遅いぞ!」
「いや、そう言われましても。せめてもっと森の奥まで来てもらわないと、分からないですよ」
「し、しるかっ! こっちにも事情というものがあるのだ! 事情がな!」
「はあ」
「とにかく! 貴様には今すぐ来てもらう必要がある。さあ、さっさとこっちにこい」
「え、普通に嫌ですけど?」
「は?」
反抗されるとは思ってなかったのか。
そう言うと、兄上はきょとんとした顔で見つめてくる。
「な、なにを言ってる? この兄たる俺の命令が聞けないというのか?」
「はい」
「……なぜ?」
「まあ簡潔にいうと面倒だからですね。あと貴方のことをもう兄弟だと思ってませんし」
僕は素直に思っていることを口にした。
兄上には、恨みこそあれど、親愛や家族の絆なんて感じたことない。そもそも、僕が追放された時に追い打ちで魔法を放ってきた奴だ。
だというのに、何故か彼は僕の発言が予想外だったとばかりに驚いている。
「お前ぇ! それが兄に対する口の利き方かぁ! 口調を改めろ!」
「だから、兄って思ってませんから。ああ、兄上と呼んだから勘違いさせてしまったのですね。ごめんなさい。言いなおします。おい、セグレイうるさいからさっさと帰れ」
「むしろ悪化してるぅぅぅ!」
恨み籠った眼差しで睨んでくる。
本当にコイツはなにがしたいんだ?
「くっ……この蛮族めがっ。野生暮らしで知性まで野に帰ったか」
「セグレイは凄いですね。別れて7年も立ったのに知能があの頃のままだ。羨ましいです。普通、人は成長する生き物なのに」
「お、おのれぇあとで覚えていろ!」
「多分無理だと思います。だって、あなたに興味ないので」
僕は早く魔術の勉強を再開したいんだ。
今は一分一秒がおしい。だから早く帰ってくれないかな。
「はあ、分かりました。話は聞くので要件を言ってください。なんですか?」
「ぐ……ち、父上がお前を呼んでいる。だから俺様達と一緒に帰ってこい」
「父上が?」
はて、今更僕に用とは何だろうか。
それにしても、あの人も変わってないな。
自分から追い出しておいて、戻ってこいとか虫が良すぎる。
「お断りします」
「は?」
「はい、これで要件はすみましたね? じゃあ僕は帰るので」
「待て待て待て待てぇ!」
セグレイが必死の形相で呼び止めてくる。
そのくせ、僕の立っている黒の樹海の内側までは入ってこないのだから、とても情けない。
「お、お前自分の言っている意味が分かってるのか!? 父上の命に背いたら、どんな目にあうか知っているだろ!?」
「……あの」
「なんだ!」
「勘違いしているようですから、教えておきますけど」
「お、おう」
「もうあの人のことも貴方同様に家族だと思ってませんので」
「!?」
「というか、命令に従って、僕はこの地に来たんですから。今更干渉してくるとか、何様ですか。どうぞ一言一句違えずにお伝えください、二度と命令するなクソ親父と」
そう宣言すると、セグレイや兵士に動揺が広がる。
屋敷では大人しかった僕がそんなことを言うのが信じられないのだろう。
だが、あれは生き残るためにそうしていただけだ。
心の中では、いつかこいつら全員見返してやるとずっと思っていた。
今度こそ僕が踵を返して帰ろとすると、セグレイが頭をさげた。
僕は目を見開く。あのプライドの高いセグレイにそんな真似されるとは思ってもなかった。
「わ、わかった! 帰らなくていい。少しの時間だけ俺と二人っきりで話はできないだろうか?」
「セグレイ様!? どういう意味ですか。アジュール様を連れて帰らないと、あなたは家督を継げないのですよ」
「う、うるさい。お前等は黙ってろ。ど、どうだろうか、我が弟よ」
頬をピクつかせて兄上が無理矢理笑顔を取り繕ってそうつぶやく。
うーん、家督が継げないとはどういうことだろう?
僕が追放された以上、家督を継げるのはコイツしかいないはずだが。
非常に面倒だが、一応家には母上と妹が住んでいると思う。
変なごたごたに巻き込んで迷惑をかけるのは本望ではない。
「分かりました。少しだけですよ?」
そう返事を返すと、セグレイはニヤリと怪しげに頬を緩ませた。
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