第11話 ぬくもりと出会い

ハロー世界、グッバイ過去の僕。

どうもっ、大魔術を会得した天才魔術師です。


いやね、もう自分の才能が恐ろしいですよ。十二歳で第八魔術を覚えたなんて、僕くらいじゃないかな。絶対に史上最年少ですよ。くふふ、ああきっと将来は大魔術師として名を残すんだ。老後は自伝書でも書いて、ベストセラー作家になろうかしらん?


おっと、これ以上調子に乗ると、また師匠に拳が脳天に飛んでくるから、このくらいにしておこう。


あれから、僕は十三歳になった。

伸び悩んでいたのが嘘のように、魔術の才は開花した。


まず、土、風属性の第七魔術を覚えた。これらは水の次に得意だった属性だ。魔力出力の出量と安定力が向上したおかげで、苦も無く会得できた。


水属性は他の第八、第七の魔術を複数勉強中だ。まだマスターとまではいかないが、確かな手ごたえは感じている。遠からずクリアするだろう。


その他属性は、下~中級で頭打ちとなった。才能がないので、そこで努力するより得意な分野を伸ばそうと家族会議で決まり、いまは練習もしていない。


他に大きな変化といえば、体術の訓練を始めた。

師匠曰く、「せっかく杖なしで両手が空いてるんだから、もったいないだろう」とのことで肉体言語の勉強が加わって、毎日ボコボコにされてる。


身体強化の魔術も併用して訓練している。


あの人には、子供に優しくする、という常識が欠けている。最初は凄い人だと思っていたけれど、夜中は毎日酒を飲んで泥酔しているし、昼間の暇な時間は悠々自適に料理に勤しんでいる。せっかく異世界にいるのだからスローライフを満喫するとか、訳わからないことをぼやいていた。魔術の知見は素晴らしいが、それ以外の部分では普通にダメ人間感で溢れている。


「んー、もう朝か。そろそろ起きないと」


体術訓練で体中が痛む。

まだ眠っていたいが、一度自分を甘やかすとずるずると楽な方へ逃げたくなってしまう。はやく起きて、精神統一の練習をしなくては。


「ん?」


後頭部になにやらボインボインと柔らかい感触がする。

振り返ると、僕のベッドで寝ているタマモさんがいた。


「ちょ、タマモさん!?」

「んん、アー君。おはよ」


艶めかしい声で挨拶をしてくる。

上着がずれ落ちて、色々とはみ出そうになってたので、慌てて服を正す。危ない危ない。


ピコピコと揺れる獣耳を思わず触りたくなる。でもだめだ。そんなことをしたら彼女は喜んで、僕に抱き着いてくるだろう。


「また勝手に入ってきたんですか?」

「冬だから、アー君、一人だとが寒いと思って」

「……そうですか」


嘘である。

タマモさんは季節関係なく、こうして時々ベッドに侵入してくる。恥ずかしいから、最初の頃は注意してきたが、いうことを聞かないのでもう諦めた。


「僕は魔湖に行くので起きますね」


そそくさとベッドから這い出る。

僕はもう十三歳だ。家族のように感じているタマモさん相手になにかを意識することはないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。


「……あ、わたしも、冬魔草が欲しいから一緒にいこうかな」

「分かりました。では出かける準備をしましょう」




日課の精神統一を終えて、僕はタマモさんと一緒に冬魔草をさがす。

季節は冬だ。黒い樹海も、しとしとと降り積もる白い雪で覆われている。


「あっ、ここにもありましたよ!」


雪から芽を出す赤黒い葉っぱを引っこ抜く。

冬魔草は黒の樹海に生える、魔力の籠った葉だ。魔力回復を促進させる効果があるらしく、師匠は好んで飲んでいる。僕の授業以外ではダラダラしている彼が、魔力を回復させる必要性があるかは、はなはだ怪しいが。


「アー君は、冬魔草を見つけるのがお上手ね」

「えへへ、こどもの頃に、母さんと妹と似たようなことをしてたので」


僕の住んでいた地域には、春になると川の土手に食べれる山菜が生えていた。それを散歩がてら摘んでいたのは良い思い出だ。


「お母さまと、妹ちゃんとは仲が良かったのね」

「ええ、まあ僕が不能者と判明するまででしたけどね」


僕が不能者だと知った時の、母の顔はいまでも覚えている。もう過去のことなのであまり気にしてないが、優しかった母が、ネズミを見るような目で僕を見下してきたのはショックだったな。


それからは毎日殴られ、無理矢理魔法の勉強をさせられた。

僕によく懐いていた妹と疎遠になったのも、母がそうさせたからだ。


しみじみと感傷に浸っていると、突然体を持ち上げられる。タマモさんが僕をお姫様抱っこしていた。


「ああ、お可哀想なアー君。お姉さんが癒してあげるからね」

「ちょっと、もうべつにきにしてませんから! というか、タマモさんが抱きたいだけでしょう!?」

「んふふ、アー君はだれにも渡しません。わたしだけのものです」

「やめてください」


タマモさんの腕の中で暴れていると、視界の端に光が通り過ぎていった。


「なんだろう」


タマモさんに降ろしてもらい光を追いかけると、そこにはふわふわとした緑色の光が宙に浮いていた。


指先で撫でてみると、ブルルとふるえて、僕の指に体をこすりつけてくる。


「か、かわいい!」


光も僕のことを気に入ってくれたのか、ぴょんぴょんと空中を跳ねて、顔の前までやってくる。


「これなんですか!?」

「これは風の小精霊ですねぇ。アー君のことを好きになったみたいです」

「僕のことを!? わー、うふふ」


連れて帰りたい、そう思った。


「ねえ、この子飼ってもいいかな?」

「ん~、ミロクに聞いてみないとですね。とりあえず連れて帰りましょうか?」

「はい!」



そうして、僕は精霊と一緒に家まで帰った。























「だめだ、外に返してきなさい」

「なんでえ!?」

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