第6話 青空教室で勉強しましょう。

 師匠の元にやってきてから十日が経過した。

体の疲れもスッキリと取れて、今日は待ちに待った初授業の日!

るんるん、と自然に足取りも軽くなる。


おや、木の枝で羽休めしている黒い鳥さんが呆れたような眼差しで僕を見下ろしている。

仕方ないなぁ。

この幸せを少しおすそ分けしてあげよう。

黒い鳥さんに「やぁ」と挨拶をする。すると、そっぽをむかれて飛び去っていった。


「……ふん、愛想のない鳥ですね」


僕の超魔術で焼き鳥にして食ってやろうか。

ははは、でも許してあげよう。

今日の僕の心は樹海よりも広いのだから。



「それでは、第一回魔術講座、基礎編を開始する」

「わーい、ぱちぱち」


ついに本格的に勉強ができる。

休憩期間はこの日が楽しみすぎて気もそぞろだった。


「ぐふふ、たのしみです」

「まずは基本をおさらいしよう。魔法や魔術が発動するまでの流れだ。発動手順はどちらも同じだ。魔素を魔力に変換、魔力に属性付与、術式を構築、出力を決定して放つまでが一連の動作だ」

「ふむふむ」


それは魔法教本で知った知識と変わらない。魔力変換→属性付与→術式構築→出力の設定という4つの工程で魔法は成り立つ。どんな属性で、どんな術で、どんな威力かを詳細を決定していく。



「魔術のアドバンテージは、魔力変換から属性付与までの速さだ。魔法は杖で大気中の魔素を魔力に変換したあとに、属性指定の魔法文字を描く必要がある。しかし、魔術は己の体内に保有している魔力を使うので、魔素を変換する作業を省略できる」

「魔法使いの力量は魔素をいかに素早く魔力に変換できるかで決まると聞いたことがあります。なのに、魔術はそれを省略できるって、すごいことじゃないですか!?」


もしこれが本当なら、魔法学の常識がひっくりかえる大事件だ。


「魔法使いからすれば、そう捉えても無理はないだろうな。また、属性付与に関しても、魔術は魔法文字を用いなくても、体内にあるイメージのみで属性を与えることができる。戦いでは一瞬の速さが勝敗を決する。一対一において、魔術師は魔法使いに無類の強さを誇る」


凄い。その理論なら魔術師はどんな魔法使いをも凌駕する可能性を秘めている。もし魔術をマスターしたら……あの腹立たしい父上や兄上を一泡吹かせるかもしれない。それを想像すると、クスっとにやけてしまう。


「勘違いするな。以前にも言ったが、どちらも一長一短だ」

「……そうか、魔術師は自分の魔力しか扱えないんでしたね」

「ああ、魔術師は速さに特化しているが、その身に宿した魔力しか扱えない制約をうける」

「一方で、魔法使いが扱う魔素は大気中にほぼ無限に存在する」

「中々察しがいいな。しかし無限は間違いだ。大気中の魔素も使いすぎれば枯渇する。魔素は多い場所から少ない場所へ流動する性質があるから、再度魔素が充満するまで多少の時間差ラグが発生する」



ということは、大魔法の打ち合いに発展したら、圧倒的に魔法使いの方が有利だ。そもそも、規模の大きい魔法ほど詠唱時間も長くなる。僅かな時間が勝敗を左右する一対一ならともかく、準備に時間がかかる大魔法になれば、それだけ時間によるアドバンテージは薄くなる。


そして、保有魔力が尽きれば、魔術師は魔術を行使できなくなる一方で、魔法使いは待機すれば再装填が可能。


「大気中の魔素が戻る速さと、魔力が回復するのはどの程度の差があるんですか?」

「比べるまでもない。魔素の方が圧倒的にはやい。魔術師は魔力が尽きた時点で戦線離脱と心得よ」

「わ、分かりました。けど……そもそも魔力はどうやって貯めるんです? 僕は一度も意識したことないんですけど」

「勝手に貯まるぞ。空気を吸って吐いたり、飯をくったり、寝たりしているうちにな。一応瞑想して大気中の魔素を吸収する方法もあるが、恐ろしく集中力が必要だから、戦闘中には不向きだな」

「理解しました。……あの、これは率直な疑問なんですが、もし魔法と魔術を両方使えたら最強ってことですか?」


魔力枯渇もなく、大魔法を連発できて、状況に応じて大気の魔素と、保有魔力を使い分けたら、理論上最強の戦士になる。もしかして、もしかすると、僕もそんな存在になれたりして?


「はあ~、お前は身もを持ってそれが無理だと学んだはずだ」

「いて」


こつんと師匠が頭を小突いてくる。


「膨大な魔力持ちは、僅かな魔素を感知することが難しい。ゆえに、魔法使いか魔術師になるかは、生まれながらに決まっている。魔力保有者マジック・ホルダーのみに魔術の道は開かれる」


そうか……まあ、言われるまでもなく分かってはいたけれど。

でも最強という肩書は、やっぱり男の子だし憧れる。いつか、そんな存在になれたらいいなと思う。


「よし、座学はここまでだ。次は実践にうつる」

「わっ、やったー!」



勉強も嫌いじゃないが、正直はやく魔術をうちたくてうずうずしていた。十日も待たされたから、すでに我慢の限界だった。

まだあの時の魔術を行使した感覚は残っている。


今の僕は、屋敷でくすぶっていた時とは別人だ。

一息で魔術を我がものにして、師匠たちを、あっと、おどろかせてやろうじゃありませんか!







「炎の祝福を求める、火性魔法第一、着火イグニッション!」



「「「……」」」




「……っぐ、炎の祝福を求める、火性魔法第一、着火イグニッションっ!!」





「「「……」」」






「ほ、炎の祝福を求めるッ、火性魔法第一ッ、着火イグニッションッッッ!!!」




あ、あれ?



「あのー、全然魔術が発動しないんですけど、てへへへ」





「才能がないな」

「!?」






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