第2話 魔力の器
「……化け物?」
「末恐ろしいよ。君はその肉体に恐ろしい量の魔力を秘めている異端児だ。よろこべ、君は
また、初めて聞く言葉だ。
魔力を体内に保有してる?
魔力とは、大気中の魔素を変換して人為的に発生させるものであって、体の外に存在するものだ。それが体内に宿るなんて、おかしな話だ。
「極稀に、体に魔力をため込んでしまう体質の子が生まれる。お前もその一人だ。そもそも黒死紋という病気は、体内に収まりきらなかった魔力が、肌に染み出しておきる現象だ。その結果、魔力暴走が起きて大爆発する」
「……そんな話初めて聞きました。どんなお医者さんでも分からなかったのに」
「俺にわからないことはない」
「……す、すごい自信ですね。じゃあ……なんで、僕には痣がないんでしょう?」
「それは、お前の魔力を貯める器が異常なまでに巨大だからだ。チート持ちの俺よりデカいとか、貴様本当に人間か?」
ジロジロとミロクさんが僕を眺めてくる。
人外だと疑った相手に、人間か疑われるなんて心外だ。
「どんな生物でもその身に魔力を宿している。ただ、この世界の人ひとりが保有する魔力は極微小だ。ゆえに誰も黒死紋や、貴様の状態に気がつけなかったのだろう」
「あの」
「なんだ?」
「仮にその話が本当だとして、それと僕が不能者であることにどんな関係があるんです?」
人が平等に魔力を有するなら、僕だって魔法が使えるのが道理だ。
でも僕は一度も魔力どころか大気中の魔素を感じたことすらない。
「それは君の魔力が大きすぎるからだ。降り始めた小雨の最初の一滴は感じ取れても、土砂降りの中、雨粒ひとつを感じ取るのは至難の業だ。
「つまり……僕でも魔法は使えるってことですか?」
この人の話は全部嘘かもしれない。
そのどれもが知らない知識ばかりだ。
でも、こんな話を聞かされたら期待せずにはいられない。
ずっと魔法使いに憧れていた。
魔法に恋焦がれて、夜ごとに魔法使いになる夢をみた。
もし僕にでも魔法が使える方法があるならば、こんなに嬉しいことはない。
「無理だな」
「……っく」
けれど、そんな淡い希望を切り捨てるように、ミロクさんは短くそう断言した。
「……ううう、そう……ですよね。やっぱり僕が魔法使いなんて不可能ですよね」
「ああ無理だ」
分かっていた。
ずっと前から知っていたことじゃないか。
もし魔法が使えるなら僕はこんな惨めな想いはしていない。
諦める決心をつけたはずなのに。
僅かな希望をみせられたせいで、悔しくて、泣きそうだ。
ミロクさん。どうして期待させるようなことを言ったんですか。
だって、僕は一生魔法がつかえないんでしょう?
「この世界の魔法ではな」
突如、あたりが眩い光に包まれた。
強烈な閃光が目を突き刺してくる。
「な、なにが!?」
深い黒の樹海に突如、強大な光が出現した。
それは……
それも低位階の魔法なんかじゃない、僕がずっと渇望してやまなかった大魔法の、その前兆!
「つ、杖は!? 杖が無ければ魔法は発動できないはずだ。どうして、どうなってるの!?」
魔素を操作する杖なくして魔法は発動できない。それは、どうやっても覆すことができない魔法の大原則だ。
なのに……黒髪の彼は杖を持っていない。
「ありえない!」
いたずらが成功した子供みたいにミロクさんが目を細めて微笑む。
「簡単な話さ。大気の魔素に干渉できないのであれば、体内にある魔力を使えばいい。俺はこれを魔術と呼ぶ」
「……魔術」
「直接魔力を使うのだから、魔術師に魔素を操る杖は必要ない。こんな風にね」
『我が守護霊獣よ、我が魔力を糧に呼応に答えよ、
極大の二本の光の柱が天に立ち上る。
身の丈を遥かに上回る光の扉が出現した。
ゆっくりと扉が開かれて、突風が吹く。
扉の奥からそれは現れた。
美しい銀の鱗でびっちりと身を包まれた白銀のドラゴンと、九本の尾を生やした妖艶な美女。
「がーはっはっは! 呼んだかミロクよ!」
「あらまあ! なんて可愛らしい幼児ですの。僕ちゃんお名前は?」
巨大なドラゴンが吠え、九尾の女が笑顔で声をかけてくる。
あまりの圧倒的存在感。
非現実的現象のオンパレード。
立ち向かわなくても、本能で理解した。彼らは、別格な存在だ。
「え、ええ、えええ!?」
腰が砕けて立てなくなる。
驚愕する僕を見下ろして、ミロクさんはとびっきりの笑顔で笑った。
「少年、申し遅れたな。俺の名前はミロク……ミロク・フジワラだ。500年前に異世界より召喚された転移者」
「い、異世界!? 500年!?」
「まあ、細かい話は後でいい。とりあえず君の名前を教えてくれたまえ」
「……アジュール・ロータス……です」
「ふむ、いい名前だ。ではこれからよろしく頼むよアジュール・ロータス」
「頼むってな、なにをですか?」
「君を俺の弟子にする。さあついてきなさい、杖なき小さな魔術師よ。君を最強にしてあげよう」
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