杖なしの大魔術師~魔法が使えず迫害された僕は異世界の大賢者から『魔術』を学んで成り上がる~

街風

第1話 最終試験 才能なしの大天才

 『この世界では魔法が使えない不能者は爆死する運命にある』 





僕の名前はアジュール・ロータス。

生まれながらに魔法が使えない不能者だ。


魔法が使えないのは僕が黒死紋という病に侵されているからだ。

この病気にかかると、とある理由で魔法が使えなくなる。

そして、5歳をすぎると体に黒いあざが浮かび上がり、それが全身に広がると、大爆発して死ぬ。


原因は判明していないらしいが、その威力たるや恐ろしく街一つが消し飛ぶほどだとか。



けれど、不思議なことが起きた。

なぜか6歳になったいまも僕は生きている。

理由は分からない。


不能者なのに僕には


その矛盾のせいで僕の処遇は今日までずるずると答えを先延ばしにされてきた。

しかし、誰だっていつ爆発するか分からない危険な子供と一緒にはいたくない。


ついにその時がきたのだ。



「アジュール、これが最終試験だ。もし魔法に失敗したら貴様を樹海に追放する」

「……はい父上」



 屋敷の庭で家族、使用人達が品定めするような眼差しで見つめてくる。


追放……という曖昧な表現で誤魔化しているけど、実質それの意味するところは『迷惑がかからない場所で爆発してくれ』という意味だろう。



「ふぅ」


魔法さえつかえれば黒死紋だという疑いは晴れる。

それを証明できるのは、いまこの瞬間しかなかった。


(こんなところで死んでたまるか、絶対に成功させてやる)


呼吸を整えて、杖を握りしめる。


「い、いきます!」


緊張して手が震える。

でも時間は待ってくれない。

杖を掲げて大気中の魔素へ干渉する。

魔法は杖が無ければ絶対に発動できない。

魔法を発動させるには、大気中の魔素に杖で干渉して、魔力に変換する必要がある。


杖で宙に魔法文字を描き、これまで何度も練習してきた呪文を唱えた。


『炎の祝福を求める、火性魔法第一、着火イグニッション!』


小さな火種を発現させる初級魔法だ。

目の前に置かれた木片に杖を構えて魔法を放つ。


しかし、どれだけ待っても変化は訪れなかった。


「……っつ」


(そんなはずはない。まだだ、まだあきらめない!)


『炎の祝福を求める、火性魔法第一、着火っイグニッション!』

『炎の祝福を求める、火性魔法第一、着火っイグニッション!!』

『炎の祝福を求める、火性魔法第一、着火っイグニッション!!!』


呪文をとなえる。

何度も、何度も、何度も、喉が痛くなるまで。

だけど、魔法は発動しなかった。


「くはははは、お、おい本気でやってるのか? 生き残る最後のチャンスなんだぞ?」


 兄上が腹を抱えて笑う。

それにつられて、使用人達もクスクスと笑い声をあげた。


「ふふふ、第一の魔法すら使えないなんて」

「あれなら孤児の方がまだましね」

「哀れな子供、本当にロータス家の人間なのかしら。でも、これでようやく安心して暮らせるわ」


魔法の手順は間違っていない。

なんども確認した。

普通の人ならこれで問題なく魔法が発動しできるはずだった。


そう普通の人なら。

僕は大気中の魔素を感知できないのだ。

これこそが、黒死紋の最大の特徴だった。

この病にかかった人は、なぜか生まれながらに魔素のいっさいを感じ取ることができない。



「まったく嘆かわしい。不能者が名誉ある我がロータス家から生まれるとはな。アジュール、試験は不合格だ。約束通り、貴様を黒の樹海へ追放する」

「ま、待ってください父上。僕はまだやれます!」

 

誰よりも魔法を練習してきたんだ。

体に黒い痣だってない。

きっと、黒死紋じゃない。

時間さえあれば、魔法が使えるようになるはずなんだ。


「お願いします! もう一度ッ、もう一度だけチャンスをくださいッ。なんでもしますから僕に魔法を教えてください、魔法が、魔法だけが僕の最後の希望なんです」


地面に頭をこすりつけて懇願する。

こんな人達に頭を下げるのは屈辱だった。

だけど、生き残るためにはこうするしかない。


「おいアジュール、いつまで魔法使い気取りでいるつもりだ、もうお前にそれは必要ないだろ?」

「え?」


顔をあげると、兄上がひざまづく僕に杖をむけていた。


「迸る炎の閃光よ、火性魔法第三、熱線ヒート・レイ

「うっ」


 放たれた熱線が、僕の杖と肩をつらぬく。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


痛い。熱い。

なんでだよ。

どうしてこんなヒドイことするの?

あまりの苦痛に耐えきれず、杖を落としてしまう。

兄上はそれを拾い上げて、ニヤニヤと笑った。


「もう会うことはないだろう、サラバだ、杖なしめ」


そういうと、兄上は僕の杖を叩き折った。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」







 それからのことはよく覚えていない。

目が覚めたら馬車に乗せられていて。

杖はなくなっていた。



「ほれ、ついたぞ。ここから先は領地外だ」


護衛の男に馬車から降ろされると、目の前には黒い樹海が広がっていた。


「あとは自由だ。まあ、なんだせいぜい頑張っていきろや」

「はは、魔法も使えない不能者が、黒の樹海で生き残れると本気で言ってますか?」

「……」


護衛はなにも答えない。

目的をやり遂げた彼は、申し訳なさそうに立ち去っていった。


悪い人ではないのかもしれない。

でも心底ムカついた。

少しくらい、同情して優しい言葉をかけてくれよ。


黒の樹海は凶悪な魔獣が巣食う魔の森だ。

こんな場所に人里があるはずもなく、食料もない。


「どうせ死ぬなら黒の樹海をみてやろうじゃないか。ふふ、前人未到の偉業だぞ」


精一杯の強がりを吐いて、死への恐怖を振り払う。

震える足で樹海に入った。




兄上に魔法で撃ち抜かれた肩は治療が施されておらず、ひどく痛み膿んでいた。


「うぐ、いてて」


一歩踏み出すたびに激痛で顔が歪む。

血の繋がった弟に魔法を放つなんて、本当にあの兄は頭がどうかしている。


「いっそ、屋敷に戻って爆発して死んでやろうか、その方が少しは気分も晴れるかもしれません」


そうだ。爆発寸前で奴にだきついて道連れにしてやろう。

あの高慢な兄上が絶望する姿を想像するだけで胸がスカッとする。

本当にやってやろうか。

なんて。無関係な街の人まで巻き込むことことは流石に出来ない。



樹海の獣道は、幼い僕の体力を容赦なく奪い、限界はすぐにやってきた。


「はあ、はあ、はあ、まさかこんな場所で終わりなんて」


ゴミみたいな人生だったと思う。

冷酷な家族と、金のために義務で面倒をみてくれる使用人。

そんな人達と過ごす日常はとても苦痛だった。


魔法使いになれば全てを覆せると信じて、死ぬ気で努力してきた。


「まあ、結果として何も得られなかったわけだけれど」


叶うなら、次の人生は魔法を扱える人間になりたい。

自由に魔法を操れる、そんな大魔法使いになれたらいいなと思う。


「はは、どうせ死ぬなら最後に大魔法を一度くらいみたかったなー」

「さっきから独り語りが多いガキだな」

「え!?」


ずいずんと呑気な声が聞こえてきた。

幻聴か?

慌てて振り返ると、そこには黒髪の男がいた。


「だ、だれですか!?」

「あ、おれはミロク。よろしく」


あまりに、あっさりとした自己紹介。

いやいや、あっさりしすぎている。

どうしてこんな場所に人がいるの。


「杖なしの子供が一人でなにしている」

「え……え、えーと、いや、どこからつっこめばいいのか」

「つっこみなんていらんわ。まずはお前の状況を伝えるのが先よ」


どうしよう。

不審者すぎる。何者だこの人は。本当に人間か?

人に擬態したモンスターかもしれない。

帰らずの森と畏怖される黒の樹海で、人間がいるわけない。


「俺は人間だよ」

「こ、こころを読まないでください!」

「はは、あてずっぽだよ」


黒髪に黒い瞳。

ここら辺じゃみかけないタイプだ。

もしや外国の方?


「ほら、はやく説明しなって」

「……あ、はい」


まあ、今更失うものはない。

あまり乗り気にはなれないが、隠す必要もない。

僕はここに来るまでの経緯を説明した。


すると


「ふむ、それはおかしいな」


ミロクと名乗った男は不思議そうに首をかしげる。


「俺の見立ててでは、君には魔法の素質があるようにみえる。それも生半可なもんじゃない。稀代の魔法使いともいうべき才覚が」

「ほ、本当ですか!? 嘘じゃないですよね!?」

「嘘などつかないよ。どれ、君の才能がどんなものか調べてしんぜよう」

「そんなことできるんですか!?」

「まあね、こう見えて俺、チート持ちだから」

「チート?」


ミロクさんは僕の頭の上に手をのせて呟いた。


「鑑定……ステータス」


初めて聞く詠唱だ。これも魔法なのか。

しばらくすると、ミロクさんは余裕そうな表情を崩して、顔を青ざめさせる。

額からは大量の汗が噴きだしていた。


ついには片膝をついて倒れてしまう。


「ハアハアハア、馬鹿なッ!? こんなことが、あり得るのか!?」


とても狼狽している。

もしかすると、やっぱり良くない結果だったのか?

不安で声が震える。


「そ、そのぉ、分かりましたか?」


お願い神様。

どうか僕に魔法の才能をください。


「……ああ、よーくわかったよ。君のことがね」

「それで?」

「そうだな……端的に言うなら君は」





























「化け物だ」












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