1通目 クラムボンってなんですか?
拝啓 宮沢賢治様
銀杏の葉が外国の絵具でぬったような黄色に色づきました。先生におかれましては、いかがおすごしですか?
さて、突然ですが質問があります。
先生、クラムボンってなんですか?
かぷかぷ笑っていたと思ったら、死んでしまうし、いったいなんでしょうか。
とお尋ねしてみましたが、実際のところ正解が欲しいわけではありません。ちょっとお尋ねしてみたかっただけなのです。
先生はご存じですか?
小学校の授業で『やまなし』を習うのです。
小学生だった私は、クラムボンは「泡」だと思っていました。
ですから、お風呂の中でクラムボンが作り出せるのではないかと小学生の私は考えたのです。
まず、お風呂の中でもぐります。目をぐーっとがまんして開いておきます。そして「かぷかぷ」と笑うのです。
するとどうでしょう。
水を飲みこんでしまいます。大変苦しい思いをしたので、もうやりたくないと思いました。
ところで先生、なにか違和感を覚えませんか?
そうです!
「かぷかぷ」と笑うのはクラムボンの方なのです。私が「かぷかぷ」と笑ってしまっては全くもって、意味がないのです。
リベンジです。クラムボンリベンジです。
今度はプールの中で、クラムボンを作り出してみようと思いました。
プールの底まで沈みます。上を見上げると水面には光の粒が浮いていて、銀色の編み目模様が伸びたり縮んだりしています。
ロケーションはばっちりです。
今度は「ぷ」の口で、慎重に、ゆっくりと、息を吐きだします。
小さな泡が三つほど目の前に現れました。まるで、赤ちゃんのクラゲのようです。
泡は、ゆりかごに似ていました。今生まれたばかりの命を運んで、形を変えながら浮かんでいきます。そして水面にぶつかって、消えてしまいました。
先生、水の中に住む生き物たちは水面をどう見ているのでしょう?
わたしたち人間が見ている空と同じでしょうか。
それとも、天井でしょうか。
正解はわかりません。想像するしかないのです。
きっと、クラムボンもそういった存在なのですよね。
あ、先生。正解は言わないでくださいね。
きっとそのほうが、楽しいでしょうから。
先生、今日の手紙はここまでです。
一通目ですから、へんてこなことを書いて読者の皆様を驚かせたくなかったのです。
ええ、そうです。私は意外と弱虫なんですよ。
なんてね。
びっくりするくらい寒くなってきましたので、どうぞご用心くださいませ。
敬具
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