1章 2話
「和歌子様。アレはゴミです。従姉妹として、恥ずかしい限りですよ」
「あら、そうでしたわね。玲樺はアレの母――稀代の淫売が御母に当たるのでしたわね。……貴女は淫売の血を引いていないのですわよね?」
「はい。母は罪なく高貴な血のままです! あの使用人以下……罪人同然の美雪と違い、私は名門朝原家と高貴なる武家……妖人の御力を一部でも宿す継承者の娘です。能力、血筋ともに親族と呼ぶことさえ嫌なぐらいですよ」
銀柳の血を引く家臣団や嫁御巫は弔問客に挨拶をするべく一番前列へ居並ぶ中では、小声でそのようなやり取りがされていた。
国主が崩御しても、国は終わらない。
もう既に次代の国主支配下における権力闘争が始まっているのが――嫁御巫というものである。
正妻候補として筆頭の燈園寺家の和歌子と、堕ちた名門朝原家の才女として名高い玲樺は、黒い喪服に身を包みながら、ひそひそと嫁御巫末席に立つ異物へ言葉の刃を向けていた。
謂われのない暴言に対しても美雪は、長年の生活から謝罪がクセになっている。
とにかく、謝るべく口を開こうとすると――。
「あら。まさか下民が、山凪国建国以来の超名門、燈園寺家の許しなく口を聞くつもり?」
玲樺の吐く毒のような言葉に、美雪は俯き口を引き結んだ。
(やはり、白の喪服は目立ちましたか……。いいのです、黒の喪服か白の喪服か。選択肢を与えていただけたで十分。私のような者が、お見送りの場に立てただけでも感謝しないといけません)
数十といる嫁御巫に、膨大な黒い家臣集団。
そんな中、一人だけ白い喪服に身を包む美雪には、蔑視が向けられていた。
それは何も、服装のことだけではないと美雪は理解している。
(仕方のないことです。……私の出自、能力では、何もお役に立てない。葬儀が終わり壬夜銀様が魂刀を受け継ぎ襲名の儀を終えれば、追放でしょうか。或いは、怪異を誘き寄せる餌として使い捨てられるでしょうか。……どちらにせよ、私の辿る結末は変わらない)
近い将来訪れるであろう自身の死を悟る美雪は何も――自分の死に装束として白を選んだわけではない。
周囲は、そのように「死に装束か」、「後追いで殉職するつもりか」、「巫女見習いが殉職したとしても、壬夜銀様とて喜ばないであろう……。特別な事情があれど」と、勝手な噂話をしている。
「参列してるワシ等まで、気分が悪くなるわ」
「銀柳様の最大の失敗は、あのような売女の娘を……見習いとはいえ嫁御巫に加えたことだな」
「聞けば微量の妖力しか操れず、小さな結界すらも張れぬそうではないか」
「そもそも、だ。いくら妖人の血を濃く受け継ぐ嫁御巫や継承者が求められるとは申せども、あの娘を嫁に迎えるのは……」
もはや美雪は、何も言い返さない。暗い瞳で俯くのみだ。
物心ついた頃から、十九歳になる現在まで――明確に下へ位置する人間として生きてきた。
十二歳の頃、妖人が放った妖力を吸収して扱えるのか。嫁御巫としての資格を万民が受ける資格を与えられる場で、僅かばかりにでも素養を示し、美雪は銀柳に拾ってもらった。
(お陰で家族に殺されず、下働き以下の生活から嫁御巫見習いとして下働き並みの生活ができたのです。たとえ針の筵に座らせられているように苛烈なイジメがあれど……。今まで私が生きてこられたのは銀柳様のお陰。一度としてお手にも触れてない嫁御巫でも感謝は忘れません)
浴びせられる視線や暴言に慣れた美雪は、亡き恩人にひたすら感謝と死後の安らぎを祈っていた。
すると――。
「――おお、親父殿の
―――――――――――
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