第12話

車のエンジン音が、遠ざかっていく。



さっきまで二人で盛り上がっていたリビングは、音もなく取り残されている。



いつもこの瞬間は辛い。



誰だって、さっきまで一緒にいた人が帰ってしまっては、寂しいじゃない?



静寂が響くリビングのソファーに腰掛け、先程のことを思い出す。



あなたは気づいているのかしら?



自然と口角が上がる



最近、私を見るときに、姉の影を追っているのではなく、私自身を見ていることに。



玄関先でのように、名残惜しそうに“私”を見つめる、その瞳に。



「ふふっ」



彼が自分の感情に気づくのは、いつになるかしら。



でもね、例えそれが恋慕でも、私はあなたの物にはならないわ。


だって私の好きなあなたは、姉と一緒にいるときのあなたなのだから。



だからね、お姉ちゃん、毎回そんなに凄まなくても、取りはしないわよ。



いつも彼に抱きついてきて、こちらを睨む影。



心配しなくても、お義兄ちゃんはお姉ちゃんのこと大好きだから。




だから私はこの日が好きなの。

二人で一人前の、私が恋焦がれる夫婦に会えるから。




STORY1 --END

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