第10話

学校で私を“フルサキ”と呼ぶのも、姉を思い出してしまうからだろう。



二人は大学で知り合い、就職の後、付き合い始めた。


お互い苗字で呼んでいた期間が長いため、どうしても似た顔をした私を“コザキ”と呼ぶのはつらいのだ。



私の高校へ赴任してきたのはたまたまだったが、あの人気だ。色々と詮索されるのを嫌った私たちは、学校では他人のフリをしている。



それでも私は、いいと思った。



だって好きな人が同じ空間にいるんだし、こうして月一ではみんなの知らない一面を独り占めできる。



成就せずとも、それだけで充分じゃない?



それに、家では“リリ”と呼んでくれる。



姉と暮らしていたときは“妹ちゃん”だったけれど、2年前から突然名前で呼ぶようになった。



どういう心境の変化かは分からない。



最初こそ戸惑ったが、今ではそれが当たり前になっている。

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