第32話
「じゃあ、帰るか」
「はい」
19時を回った頃、駐車場に戻り、二人は車に乗り込んだ。
マンションに着いて瞳の家に入ると、桂は省吾の遺影の前に行き、手を合わせた。
「西村さん、ありがとう」
瞳が言うと、桂は振り向いて瞳の顔を見た。
「そろそろ、西村さんはやめないか?あと、敬語も」
「そうね。じゃあ・・・桂さん?・・桂くん?」
「かっちゃんで」
桂は、嬉しそうに笑顔を見せた。
瞳はエプロンをすると、キッチンで夕飯の用意を始めた。
「何か手伝おうか?」
手持ち無沙汰の桂が、キッチンに入って来た。
「じゃあ、かっちゃん、そこのレタスちぎってくれる?」
「オッケー、瞳」
二人はまるで新婚夫婦のように、仲良く料理をした。食卓に、料理が並んだ。
「美味そう」
桂が小さい子供のように唾を飲み込んだ。
「座って」
瞳は桂に言うと、エプロンを取って自分も椅子に座った。
二人は手を合わせて、同時に、
「いただきます」
と言った。
桂は瞳の始めての手料理を、嬉しそうに頬張った。
「美味いっ。瞳の料理は最高だ」
桂が大袈裟に言った。
「それ、買ってきたシュウマイだけど」
瞳はちょっとふくれて見せたが、桂の食べっぷりを、嬉しそうに微笑みながら見ていた。
「瞳も食べなよ」
「うん」
瞳もシュウマイに手を伸ばした。
「うん、美味しい」
「だろ?」
ほとんど桂が平らげた空っぽのお皿を、瞳が洗い終わると、ちょうどコーヒーが落ちたところだった。
「どうぞ」
イタリア製のコーヒーカップに注がれたコーヒーの味は、また格別だった。桂は、コーヒーを飲み終わると、徐に立ち上がった。
「俺、そろそろ帰るわ。ご馳走様」
「こちらこそ、ご馳走様でした。今日はとっても楽しかった」
「瞳・・」
桂は、優しく瞳を抱きしめた。
「俺も楽しかった」
「これから走るんでしょう?大丈夫?食べ過ぎじゃない?」
瞳が心配して言った。
「ほんとだ。食い過ぎた。瞳の料理が美味過ぎたせいだぞ」
「ごめんなさい」
瞳は笑って謝った。
「お詫びに何して貰おうかな?」
桂がねだるような目をして言った。
瞳がためらっていると、桂が瞳の頬に軽くキスをした。
「返事、訊いてもいい?」
「うん。・・・・私でよかったら・・よろしくお願いします」
「よしっ!じゃあ、明日から大会まで、毎日図書館の横で走っているから、一緒に帰ろう」
「うん」
瞳は、桂の目を見て頷いた。
桂は瞳をぎゅっと抱きしめた。
桂は部屋を出て、エレベーターに向かった。
マンションを出て駐車場に向かう桂の後ろを、同じ歩幅で歩いて行く男がいた。祐介だった。更に、その後ろを、黒ずくめの男が歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます