第31話

「少し早いけど、夕飯食べに行こうか」

桂が瞳の顔を見て言った。

「はい」

二人は立ち上がると、桂から手を繋いで映画館を出た。

瞳はデートも久し振りで、少女のようにはしゃいでいた。桂も、そんな瞳を見ているだけで幸せな気持ちになった。

「中華でもいい?行きつけの美味い店があるんだ」

桂が握った瞳の手を引いて、歩調を早めた。

「いいですよ。西村さんに任せるって言ったんですから」

二人は車に乗り込み、桂は横浜の中華街に向かって車を走らせた。駐車場に車を停めて、手を繋いだ二人は中華街の門を潜った。

桂が行きつけだと言う店に入り 、四角い四人掛けのテーブルに向かい合って座った。

「今日はもう走って来たんですか?」

瞳がエビチリを食べながら、桂に訊いた。

「朝50Km走ってから、ジムに行って筋トレして、ランニングマシーンで走ってきた。また夜走るけどね」

「凄い。頑張って下さいね」

「ああ、今度の大会だけは、絶対に優勝したいんだ。って言うか、絶対に優勝する」

「優勝すれば、オリンピックに出られるってほんとですか?」

「そうだよ。それも、もちろんあるけど、優勝したら、瞳に大事な話がある」

桂は、真剣な顔で言った。

「話って何ですか?」

瞳は身を乗り出して言った。

「優勝したら話すよ」

桂は、もったいぶるように言った。

「わかりました。楽しみにしてます」

コース料理の最後の杏仁豆腐も食べ終わり、桂が伝票を持ってレジに向かった。

桂が会計を済ませると、

「ご馳走様でした。お美味しかったです。さすが、西村さんが行きつけにするだけのお店ですね」

「良かった。喜んで貰えて。これでも、どこがいいか悩んだんだよ。瞳が何が好きかわからなかったから」

「ありがとう。苦手な物はあるけど、基本、食べられない物はないから何でも大丈夫ですよ」

「そうか。次はどこがいいかな」

「こんな高級な所でなくてもいいわ。美味しいオムライスとビーフシチューのお店があるじゃないですか。図書館の前の食堂もあるし」

瞳は、笑顔で言った。

「そうだな。でも、どっちもデートっていう気分にならない店だな」

桂が、ふっと笑って言った。

「そう・・ですね」

それから、二人は手を繋いで中華街をブラブラして、春巻きやシュウマイを買い込んだ。

「帰ってから、これ、食べましょう」

「瞳ん家、行ってもいいの?」

「いいですよ。でも、また中華じゃ飽きちゃうかしら?」

「瞳の手料理食べられるなら、何でもいいよ」

「お口に合うかどうか」

瞳は、桂が持っている買い物袋を指差して笑った。

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