第29話

「じゃ、また連絡するね」

美樹は、機嫌よく笑いながら服を着ると、部屋を出て行った。

祐介は、ルームサービスを頼むと、その間にシャワーを浴びた。 バスルームから出て、クローゼットからスーツを出すと、鼻を近づけた。確かに瞳の香水の香りがして、昨夜、瞳を抱きしめた感触を思い出した。祐介は瞳を思いながら、そっと上着を抱きしめた。

その時チャイムが鳴って、ルームサービスが届いた。祐介が朝食を食べ始めると、スマホから着メロが流れた。

「もしもし」

祐介が電話に出ると、順平からだった。

「もしもし、俺、下にいるから」

「すぐ行く」

祐介は朝食もそこそこに、部屋を出てチェックアウトすると、ロビーにいた順平と二人で、ホテルを出た。二人は、順平の知っている不動産屋を回り、夕方には事務所に最適な物件を決めて、契約した。

その日、瞳は、図書館で半日忙しく仕事をしていた。蔵書整理で、出勤予定の由美が風邪でダウンし、急遽、休日出勤になったのである。

瞳は、桂に電話して約束を午後からにした。

更衣室は、月曜恒例の独身者の昼食の場所決めで盛り上がっていた。図書館の前の食堂は、図書館に合わせて月曜日が定休日だった。

「瞳さんも、たまには一緒行きましょうよ。近くに、オムライスの美味しいお店見つけたんです。入り口に牛の首輪みたいなベルがあって、可愛いお店で、シェフのおすすめはビーフシチューなんですけど、オムライスがとっても美味しいみたいなんです。友達が食べに行って美味しかったって、インスタに載せていたんです」

一番若い市川沙希が、興奮して言った。

瞳は、その店はきっと 桂の家だと思った。

「私は、いいわ。約束あるので。その店、一昨日行ったばかりだから。でも、本当にオムライスも、ビーフシチューも美味しかったわ。是非食べて来て」

瞳はそう言うと、

「お先に」

と言って、更衣室を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る