第27話

瞳はタクシーに乗り、マンションへと向かっていた。マンションの前でタクシーを降りて入り口に歩いて行くと、人影が見えた。

「西村さん?どうしたんですか?」

それは桂だった。

「ごめん、こんな遅くに。大原さん、同級会だって言ってただろ?何かわかんないけど、胸騒ぎがしてさ。気がついたらここにいた」

「胸騒ぎって・・」

瞳の顔が一瞬曇った。

「電話の向こうで、男の声で、瞳って呼ぶのが聞こえたからさ。そいつと何かあったんじゃないかと思って」

桂は、祐介に嫉妬している自分が恥ずかしくなって、頭を掻いた。

「西村さんたら」

瞳は、桂が可愛く思えて吹き出した。

「笑うことないだろ」

桂は、照れくさそうに言った。

「ごめんなさい。ふふっ。とにかく、家に入りましょう」

二人はエレベーターに乗って、5階で降りて、瞳の家に入って行った。

「そこ、座って下さい」

桂は、言われるままにソファに座った。

時計は、12時を回っていた。

「いつから待っていたんですか?」

瞳が心配して訊いた。

「ごめん、明日話を聞けばいいことなのに、明日まで待てなくて。大原さんと電話してからすぐ来た」

「心配かけてごめんなさい。でも、西村さんが心配するようなことは何もないですよ」

瞳は、祐介とホテルに行った事は黙っていようと思った。

「 そうか、良かった」

桂は、ホッと胸を撫で下ろした。

「彼とは小学校からの腐れ縁で、馴れ馴れしく瞳って呼ぶんです。でも、それだけです」

瞳は桂に弁解しながら、自分に言い聞かせていた。

「そっか、俺ってカッコ悪いよな」

「そんなことないです。ありがとうございます」

瞳が微笑むと、桂は立ち上がって、

「おいで」

と、両手を広げた。

桂に言われて、瞳は桂の広げた腕の中に包まれていった。

「瞳・・って呼んでいい?」

桂は、細い瞳の体が折れそうなほど、強く抱きしめた。

「はい」

桂は抱きしめた瞳から、微かに漂う男性用のコロンの移り香を嗅ぎ分けた。

「帰るわ」

桂は、ゆっくりと手を緩めた。

「じゃあ、また明日。あっ、もう今日か」

桂は、動揺を隠せず、瞳に背を向けた。

「はい」

桂は瞳の顔を見ずに、軽く手を挙げて、玄関のドアを開けて出て行った。

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