第15話

「・・もう少し、西村さんの事知ってから返事してもいいですか?」

瞳も少し照れたように、はにかんで言った。

桂は嬉しそうに瞳をぎゅっと抱きしめた。

「わかった。俺、何焦ってるんだろう。前向きに検討をお願いします。じゃあ、明日の朝早いからもう帰るよ。また、図書館の前で待っててもいい?」

「はい」

「図書館て、休みある?」

「月曜日か、祝日の次の火曜日です」

「そっかあ、俺もいつも月曜休みだから、今度の休み、映画でも行かないか?」

「はい」

「明日の夜、電話するよ。番号教えて」

桂が言うと、瞳は桂の腕を解き、サイドボードの引き出しから名刺を取り出して桂に渡した。

「はい」

桂はリュックから財布を出して、大事にその名刺をしまった。

「コーヒー美味かったよ」

桂が靴を履いて、振り向いた。

「こちらこそ、ご馳走様でした」

「じゃっ、おやすみ」

桂が、戸を開けた。

「ちょっと待って。下まで送って行きます」

瞳はサンダルを引っ掛け、桂と一緒にエレベーターに乗って下まで送ると、軽く手を挙げて笑顔で手を振った。桂も振り向きながら大きく手を振った。瞳の中で、驚くほど桂の存在が大きくなっていた。

瞳はエレベーターに乗ると、久しぶりに男の人とデートの約束をした事を思い出して赤面した。

その時、桂の後を追ってマンションの中から足早に出て行く黒い人影があった。

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