第14話

図書館の前を通り過ぎて、しばらく行ったところで、瞳は足を止めた。

「うち、ここです」

瞳の目線の先には、高級マンションがそびえ立っていた。

「いい所に住んでるんだね」

桂は驚いた様子で言った。

「身分不相応だと思ってるんじゃないですか?亡くなった主人が社長だったんです。でも、一人で暮らすにはこの家は広過ぎて、夜は怖いです。送ってもらったお礼に、お茶でもいかがですか?」

瞳は久しぶりのワインに酔ったのか、自分から桂を誘った。

「じゃあ、ちょっとだけ」

桂から自転車を受け取った瞳は、自転車置場に自転車を入れ、鍵をかけた。

瞳の後についてエレベーターに乗ると、さすがに桂は緊張してきた。

「どうぞ」

桂が通されたリビングには、サイドボードの上に、額に入った写真と水の入ったグラスが置かれていた。桂は迷わずその前に行き、手を合わせた。

「ありがとうございます」

瞳は、コーヒーをお盆に乗せてキッチンから運んでくると、テーブルに置きながら、桂の後ろ姿に向かって言った。

「そこ、座ってて下さい」

桂は言われるままに近くのソファにゆっくりと腰を下ろした。部屋を見回すと、高級というよりは、アンティークな家具が多かった。

「この部屋、なんか落ち着くな」

桂が、ボソッと言った。

「そうですか?そう言えば、西村さんの家のレストランと雰囲気似てるかもしれないですね」

「そう言われてみると、似てるな」

桂も納得して頷いた。

「コーヒー、どうぞ」

瞳が、桂の前にコーヒーカップを置いた。

「いただきます」

桂は、コーヒーカップを手に取ると、一口飲んだ。

「うまいっ」

「新婚旅行でハワイに行ってからずっと、コナコーヒーにハマって、ハワイから取り寄せてるんです」

「そうか・・・」

桂は立ち上がり、お盆を下げに行った瞳の腕を掴むと衝動的に抱きしめた。

「西村さん・・・」

瞳は驚いてお盆を落としたが、そのまま動かずにいた。

「ごめん」

桂は腕の力を緩めた。

「俺、この人を愛した大原さんを丸ごと全部受け止めるから、俺と付き合ってください」

桂は、瞳の腰に手を回したまま、瞳の目をじっと見つめて言った。

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