第12話

「いいよ」

桂は、オムライスをひとくち分スプーンに乗せて瞳の前に差し出し、瞳の口の中に入れた。

「うん、美味しい。オムライスってお店で食べたことなかったけど、なんか今まで知らなくて損した気分です」

瞳が言うと、

「だろっ。毎日食べたくなった?」

桂が意味ありげに言った。

「そうですね」

瞳がクスッと笑って言った。

「なら、毎日ここで晩飯食べればいいよ」

桂が真剣な目で言った。

「えっ?」

瞳は一瞬戸惑った。

「西村さん・・・」

瞳はちょっと考え込んだ。

夫が亡くなって、まだ一年しか経っていないのに、もう違う男の人からアプローチされるなんて思ってもみなかった。桂は、夫を亡くした瞳の心の隙間に意図も簡単に入り込んできた。

「俺、もっと大原さんのこと知りたいし、俺のことも知ってほしい」

瞳は、桂の強い気持ちに押されていた。

「ありがとう。でも、やっぱり今はまだ・・。それに、いくら美味しくても、毎日オムライスっていうのも・・・」

瞳も桂の気持ちに真剣に答えなければならないと思った。

「それもそうだ。いいよ。ゆっくり考えてよ」

桂は一瞬がっかりした表情を見せたが、落ち着いて言った。

「うん」

瞳がホッとして笑ったのを見て、桂はワインを一気に飲み干した。

「でも、たまにならオムライスもいいだろ?」

「ええ」

二人は、会話も弾み、瞳は久しぶりに楽しい時間を過ごした。

食事が終わると、涼子がデザートにチーズケーキとコーヒーをサービスしてくれた。

「送っていくよ」

桂が言い、二人は席を立ってレジに向かった。

バッグから 財布を出した瞳に、

「いいよ」

桂が言い、桂は財布から千円札を一枚出して涼子に渡した。

「家族は、何を食べてもワンコインなんだ」

桂が言った。

「すみません」

瞳が軽く頭を下げた。

「瞳さんも、これからここで食べる時は、ワンコインでいいわよ」

涼子は、桂から千円札を受け取りながら、瞳にウィンクした。

「ありがとうございます。とっても美味しかったです」

瞳は心からそう言った。

「送って来るよ.。母さん・・朝は・・ごめん。明日からまた、弁当お願いします」

桂が涼子に言った。

「はいはい」

涼子はニコッと笑って言った。

「ご馳走様でした」

瞳が頭を下げて、桂の後について店を出た。

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