第11話

「いただきます」

瞳も両手を合わせると、軽く頭を下げた。湯気の立っている熱々のビーフシチューを一口頬張った。

「うん、美味しい。赤ワインがきいてる」

瞳は、桂の方に顔を上げて微笑んだ。

「だろっ。親父が何年もかかって、研究に研究を重ねてたどり着いた味なんだ」

桂は自慢するように言った。

「凄いわね。でも、どうして西村さんはビーフシチューじゃなくてオムライスなんですか?」

瞳が尋ねると、桂は食べる手を止めた。

「俺が小さい頃は、オムライスの専門店だったんだ。お客さんもいっぱい来てくれて、繁盛していた。あっ、今でも繁盛しているよ。でも、オムライスって、作るのに時間がかかるんだ。それで、長く待たされたお客さんから、昼休みが終わっちゃうってクレームがきたんだ。それから親父が、オムライス以外の目玉メニューを考え始めたんだ。注文して待たずにすぐ食べられるものをね。それで、オムライスにかけていた自慢のデミグラスソースからビーフシチューを思いついたんだ。昔は限定200食だったけど、今では、オムライスを注文する人も1日に20人いるかいないかだから、親父にこの店の原点を忘れさせない為にいつもオムライスをね、頼むんだ」

「息子なりに色々考えてるんですね」

瞳は、桂の事がもっと知りたいと思い始めていた。

「お店、継ぐんですか?」

「いいや。店は兄貴が継ぐことになってるんだ。今はフランスに修行に行ってるけど、あと2年経ったら帰って来る・・はず。兄貴のお陰で俺は、好きな事やらせもらってるんだけどね」

桂は、瞳が自分の事に興味を持ってくれたことが嬉しかった。

「私にも・・・・オムライス・・・・ひと口下さい」

瞳は、はにかんでそう言って口を開けた。

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