第10話

「何にする?」

桂は、瞳にメニューを渡した。

瞳はメニューを受け取ると、開いて一通り目を通した。ビーフシチューのところに、赤い字で「おすすめ」と書いてあった。

「じゃあ、このおすすめのビーフシチューと、ロールパン、それとシーザーサラダお願いします」

瞳は、メニューを見ながら言った。

「赤ワインでいい?」

桂が訊くと、瞳はにっこりと頷いた。

桂がボタンを押すと、すぐに涼子がそそくさとやってきた。

「お決まりですか?」

「ビーフシチューとロールパンとシーザーサラダ。あと、赤ワイン。俺はいつもの」

桂が注文すると、涼子はクスッと笑って、

「よく飽きないわねえ」

と言った。

涼子は厨房にオーダーを入れると、すぐにワインとワイングラスを二つ持ってきた。涼子は目の前で手際良くコルクの栓を抜くと、瞳のグラスから先にワインを注いだ。

桂のグラスにワインを注ぎ、瓶を桂の方に置いて軽く一礼すると、下がって行った。

「ワインなんて、ほんと久しぶりです。結婚式の時に飲んで以来だわ。今まで一緒に飲む人もいなかったし」

瞳は、ちょっと嬉しそうに言った。

「そうなんだ。じゃあ、乾杯しよう」

桂がグラスを手に取って言った。瞳もグラスを手に取り、前に差し出した。

「乾杯」

チン。

グラスの心地良い響きが胸に響いた。

瞳は、ワインを一口飲んだ。

「美味しいっ」

桂も、グッとグラスを傾けた。

「うん、良かった。お口に合いましたか?」

「ええ、とっても」

料理もすぐに運ばれてきた。桂の「いつもの」と言うのは、デミグラソースのかかったオムライスだった。

「いただきます」

桂は、手を合わせると食べ始めた。

「ほんとに、桂はこれが好きなのね。小学生の時から、ここで食べる時はいつもオムライスなのよ」

涼子は瞳に、息子をよろしくの意味も込めて言った。

「へえ」

瞳は、桂の意外な一面を垣間見たような気がした。

「でも、うちの一番のお勧めは、このビーフシチューよ」

涼子はそう言うと、

「ごゆっくり」

と言い残して下がって行った。

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