第7話
*
あたしは虚ろな瞳の式神の脇を潜り抜け、タクトの邪魔にならないような場所へ移動する。その時式神があたしを襲わないかドキドキしたけれども、それは杞憂に終わった。どうやらタクトの言ったとおりマッドドックは彼を殺してからじゃないとあたしを襲わないみたい。そのことに安心したのもつかぬま、タクトのことが心配でしょうがなかった。
エージェントたちの会話から、多分こいつらはあたしを殺すことが目的じゃない。あくまで生きて捕らえることが目的のはずだ。最悪あたしが捕まっても命まではとられない。けれども……。
「ゼッテェぶっ殺す!」
額に青筋を浮かべ喚き散らすマッドドックを見て確信する。この殺すという言葉は脅し文句なんかじゃない。本気でタクトを殺すつもりなんだ。
「タクト!」
思わずあたしは彼の名前を叫ぶ。
タクトはあたしの方を振り向くと、いつもと変わらない仏頂面でこくりと一度頷く。
「
マッドドックの号令のもと、彼の前に集まっていた式神たちが一斉にタクトに向かって殺到する。
タンッ。タクトのステップの音が店内に響く。
顔面に向かって振るわれた拳をタクトはヒラリ右に一歩踏み込むことでかわし、懐から取り出したナイフで首を薙ぐ。そのまま勢いに乗せ、左にいた式神の胸を貫く。そのあとすぐさま回し蹴りで右から迫ってきた式神を吹き飛ばした。
「あああぁぁあぁああぁ」
いつのまに背後に回り込んだのか一体の女の式神が叫び声を上げながら椅子を持ち上げ、その姿から想像出来ないような怪力でタクトに持ち上げた椅子を投げる。けれどもタクトはそれを一瞥することなく独特のステップを刻んでかわすと、投げられた椅子は丁度タクトを襲おうとした式神を吹き飛ばす。
まるでダンスを踊っているかのように独特のステップを刻みながら式神たちと戦うタクト。一つとして無駄な動きなどなく、まるで後ろに目でもあるかのように闘っている。
………違う。
あたしはさっきの言葉を否定する。後ろに目があるかのようにじゃない。本当にあるんだ!
あたしはさっきまでのタクトとのコインゲームを思い出す。そうだ彼には空間把握という超能力がある。たとえ目を瞑っていても式神たちの動きが彼にはわかる。
確かタクトは半径四メートルまでの物の動きを完璧に把握することが出来るって言っていた。それはつまりタクトに襲いかかる全ての敵の行動が把握できるということ。
タクトのステップがリズムを刻む。虚ろな瞳でタックルをしかける高校生くらいの式神をかわすと同時に右手のナイフで首を刎ねる。戦い始めてから五体目の式神が護符に戻された。けれども式神たちはそんなことお構いなしにタクトに向かって襲いかかる。そんな中彼はいつもと変わらない仏頂面を崩すことなくリズムを刻み続けている。
「……あれ?」
ある種非現実的光景に思考が追い付かなくなって、静かに混乱しながらタクトと式神との戦いを眺めていたあたしだけど、不意に気が付いてしまった。
振るわれた式神の拳。それがタクトの刻むリズムと
段々と、けれども確実に式神たちの動きがリズムを刻む。タクトの動きに合わせ、彼の独特のリズムを無意識に刻んでいく式神たち。
多分タクトは式神たちがなにをしようとしているのか、それと同時に敵の動きと自分の動きを最大限に活用するにはどうやって動けばいいのか常に考えているんだ。
そしてタクトの思考が導き出した動きが自然とビートを刻み、段々敵である式神たちをも巻き込み音楽を形作る。
それはまるで、戦場の
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