ネット小説に未来はあるか?

曇空 鈍縒

生存戦略

 ネット小説界隈は、作品の極端化が激しいコミュニティです。


 例えば、面白い異世界転生小説が誕生すれば異世界転生を取り扱った作品が増加し、悪役令嬢ものが流行れば悪役令嬢を取り扱った作品が増えていきます。


 そして、評価を受ける作品もそういったジャンルのものがほとんどになります。


 もちろん、主流でないジャンルの作品でも、(質が高ければ)評価を受けているものがあるのは事実です。


 ですが、それはあくまでも、というだけに過ぎず、主流となっているジャンルの作品ほど評価を受けることは難しいのが現状です。


 その根拠が、カクヨムのランキングです。


 累計ランキングのトップ20の作品は、異世界ファンタジーと現代ファンタジーに独占されており、例外があっても、たまに1,2作品ほどのラブコメがランクインする程度です。


 カクヨムにファンタジー小説が多いという点を加味しても、偏りが大きすぎるように感じます。


 ですが、これは別に運営が悪いのではありません。


 この偏りの原因は、主に読者にあります。


 まず大半の読者は、面白いことが保証されている作品(あるいは好みの作品)を積極的に読んでいくことが多いです。


 必然的に読者からの評価は、既に高い評価を受けている作品か、あるいは書籍化された作品へと偏ることになります。


 この動きは、と相乗効果を発揮して、急激に加速していきます。


 このネットの持つ性質を具体的に言うならば、多くの人から評価を受けた物ほど、多くの人の目の触れやすくなるという性質です。


 具体的には『週間ランキング』『注目の作品』などが挙げられます。


 これらのシステムによって、読者から多くの評価を受けた作品ほど、読者の目に触れる機会も増えていきます。


 またネットには、あるジャンルの作品を読むと、次はその関連小説、つまり同じジャンルの小説が表示されやすくなるという性質もあります。


 これでは、評価を受ける作品が偏っていくのも仕方がありません。


 『質の悪い作品を量産して、ネット小説を異世界ファンタジーだらけにした作者には問題がないのか』という意見を持つ人もいそうですが、これについては作者の責任ではありません。


 そもそも、作品が面白いか否かを決めるのは読者であり、また、作品を選ぶ権利も読者にあります。


 読者が読み漁った結果として、異世界ファンタジーを書けば(我々の価値基準では)低品質に思える作品でも、多くの閲覧数と高い評価を得ることができるようになったのならば、その原因が作者にあるとは言えません。


 作者は、あくまでも好きに書いているだけであり、また読者も、あくまでも好きに読んでいるだけです。


 そういう視点で見れば、どちらが悪いとか良いとか、そういう問題でもないことが分かるでしょう。


 これは、ネット小説の根源的な問題です。


 ネットの評価とは、あくまでもごく限られた読者が特殊なシステムの上で行うものであり、ネット小説界隈で高い評価を受けた作品が世間でも同じように評価されるとは限りません。


 実際、カクヨム出身で、なおかつ世間にも広く認められた作品は、私の知る限り『同志少女よ、敵を撃て』のみです。(他にもあったら、読んでみたいので教えてください)


 五十万近い作品が投稿されているというのに、世間に認められている作品は、たったの数作品しかないのです。


 それ以外は、一瞬にして膨大な作品の海に消えていきます。たとえそれなりに良い作品を作ったとしても、流行りのジャンルでなければ、ネット小説の土壌で大成することは難しいでしょう。


 主流ジャンル以外の名作に目が向きにくい点こそ、ネット小説最大の欠点だと、私は考えています。


 では、あなたの小説が生き残るためにはどうすればいいのか。


 これは、コンテストを突破して書籍化されるしか方法がありません。


 ネットのシステムに依らない公平な評価を下す人たち、つまるところ世間は、出版社が書籍化に耐えうると認めた作品しか評価してくれないからです。


 出版されて初めて、その作品の真価が分かります。


 ガラパゴス化したネット小説界隈が、今更、どんな作品でも面白ければ評価されるという形に変わっていくとは思えません。


 将来的には、人工知能にデータを提供する礎になって、連中AIの作る膨大な作品に飲み込まれていくことになるでしょう。


 同じようなジャンルを好む読者の多いネット社会では、似たようなパターンの作品を量産できる上に独創性も持つAIは、高い威力を発揮します。


 そうなれば、独創性においてAIに遅れをとりつつある人間に勝ち目はありません。


 ある狭い地域に特化した商品は、外部の商品が流入してきたことで淘汰されることがままあります。


 多くの出版社が電子書籍に力を入れ、AIの技術が急激に発展している現状、人間によって書かれたネット小説が淘汰される日も、遠くはないでしょう。


 紙の本として広い世界で戦うことができるか、あるいはネットの檻を抜けられないままに朽ちていくか。


 あなたの小説がどうなるのかは、あなた次第です。


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