国語の授業 江頭うさぎ

「重要な選択だ。どうする」

角度で見えない生徒もいただろう。

しかし、昇からははっきり見えた。


瞳が、黒目が大きく開き、背筋が凍る狂気に満ちた国語の先生の顔。

それに、江頭うさぎが細身で小柄でも46キロ前後の体重はありそうなのを、片手で持ち上げかけている。


「読む。フォロワーはいらない」

「待って。よく考えてうーちゃん」

江頭うさぎの言葉を聞いて、咄嗟に岡田河南は叫んだ。

この異質な空気の中、路地陽平も岡田河南も発言出来ることに、ただただ昇は驚愕した。


右手に持っていたムチが岡田河南に飛ぶ。

「口出しするな」

国語の先生に、もうあの寒気を覚えた顔は無かった。

そして、江藤うさぎの手首は離されランニングマシーンに戻る。


河南は心の中で思った。江頭うさぎは馬鹿な選択をした。喰ってしまおうかと。


「己の過去を顧みよ。世界に告白しよ。そして、律しよ」

冒頭は一緒だったが、後半が違った。

今度は、岡田河南、岡崎マリ、岡崎エリについて語られていた。

江頭うさぎが読み終わると、時刻は9時25分になろうとしていた。


「5分休憩だ。瞑想に入ってもらう。あぐらをかいて目を瞑れ」

皆んなランニングマシーンの後ろにあぐら姿になり目を瞑る。


「頭を空っぽに。何も考えるな」

国語の先生は言うが、空っぽに出来る人がいるのかと昇は思う。

5分はあっという間だった。


「この後は授業がスムーズにいく事を願う。次、曽根美奈」

また、冒頭は一緒で後半は違うが繰り返され、休憩時間は瞑想と合計8人が不可解な文を読まされた。


「国語の授業はここまで。今着てる物は、更衣室の青のBOXに入れろ。10時50分までには教室へ戻れ」

指示をされるが、ゆっくり歩いていたとはいえ身体も脳も疲労を感じる昇だった。


「国語の先生。質問があります」

また、路地陽平だった。

息もきれず汗もかいていない姿に昇は驚愕した。

クラスの2/3は昇同様、疲労を感じているように見えていた。


「私は次の授業があるのでな。質問がある者は平日の18時〜19時にメールか電話をしてこい。先着2名だけ相手をしてやる」

それだけ言うと国語の先生は、トレーニングルームを後にした。


その言葉を聞いた路地陽平は、飲み終わっていたペットボトルをグシャっと握り潰す。


顔は無表情な路地陽平だったが、その握り潰したペットボトルを見た玉利朝日は久しぶりに機嫌が悪くなったことを察した。

無視され、ぞんざいに扱われる姿を見たのは初めてだった。

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