1-B

2024年4月1日 午前10時30分


昇は招待状に書かれていた教室に入る。

そこには29人の生徒が座り、教室の教壇の前には、フォーマルスーツを着た女性が立っていた。


「田中昇。お前で最後だ。学園の説明をするから早く座れ」

真ん中の一番後ろ。全体を見渡しやすい席が空いていた。

急いで座り、机の上にタブレットとスマートファンが置いてある。


「この学園は紙は使わない。教科書、宿題の提出など全てをタブレットで行ってもらう」

教壇でタブレットの画面を見せながら説明を始めた。

「すげーな、よーへい。最新のタブレットだぜ。ゲーム出来っかな?」

窓際の最前列に先程のよーへいと、後ろに朝日が座っていた。

「あはは。最新というより、特注みたいだよ。ゲームは出来ないし、学園に必要でない物はダウンロード出来ないみたいだね」

金髪が太陽光できらきらと輝き、眩しい笑顔を周囲に振り撒いていた。

一部の女子が、赤らめた顔で見ているのが分かる。


そんな異質な2人を見ながら、昇は平凡を呪う。


「路地陽平(ろじようへい)の言う通りだ。学園に不必要なソフトはダウンロード出来ない。特注品で壊したり、無くしたりしないように。ま、今までに壊した者も、無くした者もいないから大丈夫と思うが…」

最後は何か含みのある喋り方だったが、それにこの時点で気づいた者は0人だった。


気付いていれば、サインなどしなかっただろう。


「先生からの急な呼び出しや、クラスメイト間や、それ以外のやりとりはこのスマートフォンを使う。私物は使えない」

この時点で昇は、スマートフォンまで支給してくれるなら、自分の携帯は解約してしまおうかな、などと気軽に考えていた。


「最後に、校長先生も仰っていたが、長い人生で3年間だけしかないこの時を、高校生らしく楽しめ。それに同意出来る者はタブレットに名前を入力しろ。それで学園準備は終わりだ」

教室に、カタカタとタブレットに名前を入力する音が響く。


「全員が入力か…。歓迎する。入学式はこれで終わりだ。気をつけて帰りなさい」

先生が去ろうとすると、廊下側の前から3番目に座っていた巨大な男が喋った。

「あの!先生の名前とか自己紹介とかは無いですか…」

100キロ以上ある巨大と、暑くも寒くもない教室で、ただ1人顔に汗をかく姿は、教室で目立った。


「私の事は、国語の先生と呼べ。名前を知る必要は無い。クラスメイトの事を知りたければ、タブレットの座席表アイコンを触ってみろ。質問があるならタブレットに聞け」

それだけ言うと、教室から去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る