隣国の傀儡子
「さっきから、何をごちゃごちゃと話している」
痺れを切らした傀儡子が、無造作に右手を大きく振るう。途端に、左右の本棚の影から二体の人形が飛び出してこちらに真っすぐ飛んできた。
すかさず、すでに練っていた魔力を右手に集めて床につける。
床から僕の吐息と呼応するように蒼い光が発せられて、ガラスのような透明の壁が生み出される。ガラスは一瞬にして僕とアテナさんを覆うドーム状になった。
「おお、魔法障壁ね。キョウ君、意外に色々と出来るわね」
「意外に、は余計ですよ」
人形は魔法障壁にぶつかると、体がばらばらに飛散し、動きが止まる。しかし数秒もすれば自己再生が始まってしまうだろう。
魔法障壁を解除すると同時に、アテナさんが傀儡子のほうへ駆けだす。この際、雑魚は無視して本体を狙うのだろうと思ったが少し違った。
アテナさんは駆けながら、鎌を左右にぐるぐると巧みにまわして飛散している人形に刃を当てている。燃え上がる人形たちの合間を駆け抜けるアテナさんは、自身が形成した炎のアーチをくぐる様に、あっという間に傀儡子との距離を詰めた。
一般的に傀儡子は近距離戦を不得意とする。一方で、アテナさんは超接近戦型だ。
そんな状況下でも、傀儡子は不敵な笑みを浮かべていた。
アテナさんが助走をつけながら大鎌を大きく右から左へ薙ぎ払う。猛スピードで振るわれる大鎌の射程内に、傀儡子は完全に収まっている。人形でも盾にするつもりだったのかもしれないが、人形もろとも斬り伏せられるだろう。もはや何かを出来る時間はないように思えた。
その瞬間に、傀儡子の体が上下に分かれる。
ローブでよく分からないがへその辺りから上下に分かれたようで、空いた空間を鎌が通過する。軌道を読み切って自ら分断したのが見てとれた。
上半身だけになった傀儡子は両手から人形と同じようにナイフを取り出して、アテナさん目掛けて振り下ろした。
アテナさんは大鎌の勢いに身を任せて体を横にずらして攻撃をかわすも、遅れてついてきた赤髪だけが僅かに斬られて、火の粉のように舞った。
「ひゃひゃひゃ! 楽しいなぁ!」
高らかに笑いながら、傀儡子の上半身が宙を舞い、残されていた下半身にすっぽりと収まった。
アテナさんは一旦体勢を整えるべく素早く後退する。小さく舌打ちしたのが聞こえた。
「おっと、いけねぇいけねぇ。本当はもっと遊びたいんだけどなぁ、こっちは急いでいるんだよ。さっさと石の在りかを言え。こんな子供じみた迷路遊びに付き合っていられるほど悠長に構えてられねぇんだよ」
「石の在りかは、こっちが知りたいぐらいなんだけどな。ねぇ、キョウ君」
「
どうやらこの犯行は計画的なものらしい。他にも仲間がいる確率が上がった。アテナさんがあの傀儡子と対峙しているときは、周りも警戒したほうがいいかもしれない。
「姑息な手段は使いたくないんだがなぁ。なんせ俺様の流儀に反する。だがまぁ、さっさと場所を言わないとなると俺も背に腹はかえられねぇ。人質を使わざるを得ない」
「人質ですって?」
後ろにいるせいでアテナさんの表情は分からないが、
アテナさん一人に任せるわけにもいかないので、周りを警戒しながら剣を出して横に並ぶ。この剣も、固定化魔法などが出来ればよいのだが常に微量な魔力を供給し続けなくてはならないのがネックだった。
「先ほどちょうどいいのを見つけてなぁ……。こういう場合、人質をもっているほうが有利になるだろう?」
嫌な笑みを浮かべる傀儡子の傍にある本棚の影から、人形が人質を抱えて現れた。
その人質は、僕の良く知る人物だった。
「……アイ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます