第5話


 星愛は、ロスト王国の話を聞いて、他の外の国をもっと知りたいと思い始めました。


 幸いにもここには、そういった本が揃っています。


 星愛は、一日中、本を読んでいました。


「勉強熱心なんだな」

「月鬼様⁉︎はい。最近、色んな国の文化を調べる事が趣味なんです」

「気になる国はあるのか?」

「えっと、賢人島というところが気になります」


 賢人島。そこは、賢人と呼ばれる人々が集まる島です。星愛が、今読んでいる本にそれが載っています。


「賢人島か。今度、暇があれば連れて行こう。他にも気になる場所があれば、どこでも連れて行く」

「月鬼様が、ここ以外で好きな国とかにも行ってみたいです。それに、そこへ行って、その国独自の文化を学びたいです」

「文化……なら、祭りとかはどうだ?今度、賢人島で、知識を共有する目的の祭りがある。そこへ行ってみるのはどうだ?あれは」


 智欲祭。智への探究心を忘れないようにと、定期的に開催される賢人島独自の祭りです。


「行ってみたいです」

「急だが、明日の夜までには支度を済ませておいて欲しい」

「祭りは、明後日ですか?」

「五日後だ。その前に、準備の手伝いを頼まれている。それに、転移魔法が使えない領域だから、旅路に時間がかかる」

「分かりました。では、この本を片付けてから、準備します」

「ああ」


 星愛は、本を持って立ち上がりました。


 本を、棚に戻します。


「月鬼様も何か調べ物ですか?」

「……星愛が、ここにいると、ヴィマに聞いて、気になって」


 月鬼は、頬を赤らめて、恥ずかしそうにそう言いました。


「……俺も支度があるから戻る」


 月鬼は、すたすたと書斎から出て行きました。


「……」


 月鬼が、書斎から出たあと、星愛も、書斎を出て、自室へ戻りました。


      **********


 とんとん


 扉を叩く音が聞こえてきました。


「ヴィマ?入って良いですよ」

「はい。失礼します」


 ヴィマが、部屋を訪れました。


「月鬼様から聞きました。旅支度、手伝います」

「ありがとうございます。何をすれば良いか分からなくて、困ってました」

「初めてですからね。一緒にやりましょう」

「はい」


 星愛は、ヴィマと一緒に、旅支度をしました。


「滞在期間は、十日間を予定しています。祭り用の服も用意していますので、そちらと、十日分の衣類を入れましょう」

「はい。十日間……長いんですか?」

「そうですね。普段は三日ほどで帰るので、長い方ですよ。星愛に楽しんでもらいたいのでしょう」

「でしたら、いっぱい楽しみます」

「そうしてください。その方が、我々も見ていて楽しいですから。あっ、姫からの化粧品等は置いていってください。滞在中は新作を試して欲しいとの事です」


 星愛が、買い物に行ったのは、二日前です。

 たった二日間でできた新作に、星愛は、首を傾げました。


「そんなに早く新作ができるものなんですか?」

「姫だからでしょう。あの方は、そういったものに対しての探究心が素晴らしいですから」

「探究心だけで、そんなにできるものなんですね」

「姫の元々持っている知識の影響でしょう。調合に使う素材の作用は、大体知っているらしいですから」

「本当にすごいです」

「そうですね。姫……星愛、智欲祭に行くのでしたら、どこでもメモできる魔法具を持っていってはいかがですか?星愛も、きっと興味を持つものがあると思うので、その時に、メモできれば便利かと」


 ヴィマは、そう言って、魔法具を鞄の中に入れました。


「ついでに、道中で、賢人島の歴史や智欲祭の事を調べられるように、本も持って行きましょうか」

「そんなに入れて、入るでしょうか?」

「大丈夫ですよ。収納魔法具ですから。いくらでも入ります」

「収納魔法具にも容量があるって、本で読みましたよ?」

「こちらは、その辺の収納魔法具に比べれば全然入りますよ。このくらい余裕です」


 この収納魔法具は、従来の収納魔法具の倍くらい入ります。入れるのを、そこまで気にしなくても良い容量です。


「星愛は、船に乗った事ないですよね。念のため酔い止めとかも持って行きましょう。一般の船よりは揺れが少ない方ですが、それでも酔う人は酔うので」

「船って酔うんですか?」

「はい。星愛にはまだ、船の事は説明していませんでしたね。今回乗る船は、高級魔法船です。魔法石の魔力を燃料に動きます。普通の船よりは揺れませんが、波の影響で多少は揺れるので、酔う人もいるそうです。賢人島までは、波が強い場所もあるので」


 賢人島近海は、荒波で一般の船では、船が横転してしまうので行けない区域です。

 今回乗る魔法船では行けますが、賢人島近海ではかなり揺れるでしょう。


「そういう事なので、多少苦くても我慢してくださいね。船に乗る前に必ず飲んでください」

「副作用とか」

「ありませんよ。姫特製の酔い止めですので。苦味は強いらしいですが。ですので、安心して大丈夫ですよ」

「はい。他にも何か持っていった方が良いものってありますか?」

「あとは、星愛が暇を潰せるものとかも持っていった方が良いでしょう。道中、かなり暇なので」


 星愛は、ここへきてからというもの、色んな事に挑戦して、できる事は増えました。ですが、まだ、暇を潰せるような趣味というのは持っていません。


 暇を潰せるものが何か、星愛は、悩みました。


「いくつか暇を潰せるような本を入れておきましょうか?」

「ありがとうございます」

「賢人島は、様々な内容の研究を見られると思います。そこで、気になるものとかを見つけて、趣味ができると良いですね」

「はい。色んなものを見て、そういうのも見つけて行きたいです」

「そうですね。もしかしたら、好きになるかもしれないので、刺繍セットとかも入れておきましょうか。もしやりたいとなれば、教えますので言ってください」


 ヴィマは、そう言って、刺繍セットを収納魔法具の中に入れました。


「準備はこのくらいでしょう」

「ありがとうございます。えっと、ヴィマも一緒に行ってくれるんですか?」

「はい。星愛の従者としてご一緒します。ベグンとチェグもご一緒しますよ。船からですが、姫達も来ると思います」

「エンジェリア様達もですか?」

「はい。姫は魔法具と薬の研究を出すらしいです。星愛も何かやってみますか?好きな料理を出すというのも良いらしいですよ。星愛は料理が上手なので、やってみても良いと思います」


 何事も挑戦。星愛は、そんなふうに前向きにやるようにしています。


「やってみます。どんな料理が良いでしょうか?」

「ここは、何か新しい料理に挑戦する事が良いでしょう。材料は気にせず、レシピを書いてみてください」

「はい。そういえば、ヴィマはどういう系が好きなんですか?」

「わたくしは、辛い系ですかね。辛い中に僅かにある甘味とかが一番好きです」


 星愛は、料理をする時に毎回思っている事があります。それは、料理をあげる人の事を考える事。


 星愛は、ヴィマの事を考えて、ノートにレシピを書きます。


「……」

「……どう、でしょうか?」

「素晴らしいです」

「これ、楽しいです」

「でしたら、これを趣味にしてみてはいかがですか?料理系の本とかも追加で入れておきます」


 ヴィマは、そう言って、料理本を収納魔法具の中に入れました。


「ありがとうございます。これ、作ったら、一番初めにヴィマに連れて行きますね。気に入ってくれると嬉しいです」

「絶対に気に入ります!気に入らないはずがありません!何があっても気に入ります!」

「まだ、作ってないから、美味しいかどうかすら分からないですよ」

「絶対に美味しいです。作ってくれるの、楽しみに待っています」


 星愛は、またレシピを思いつきました。それを、忘れないようにノートに書きます。


「ヴィマの事を考えていたら、こんなに思いつきました」

「……星愛、月鬼様は、甘いものが好きらしいですよ」

「えっ」

「月鬼様にも、何か作ってあげれば喜びます。それに、売るのも、種類があった方が売れると思います。好みとかありますから」

「そ、そうですね。みんなが買ってくれれば嬉しいですから」


 星愛は、顔を赤くして、早口でそう言いました。


 そして、すらすらとノートにレシピを書きます。


「月鬼様に喜んでもらえると良いですね」

「は、はい」

「そういえば、姫とゼーシェリオン様も甘いものが好きらしいですね。もしかしたら、買ってくれるかもしれません」

「……化粧品と洗顔セットのお礼に渡したら喜ぶでしょうか?」

「絶対に喜びますよ。ですが、蝶様に止められるので、いっぱい渡してはいけませんよ。姫とゼーシェリオン様は、魔力の問題で、甘いものをあまり食べない方が良いらしいので」

「では、ちっちゃいのを一個ずつ渡してみます」


 小さくても、美味しさは長続き。そんなレシピを、星愛はエンジェリア達のために考えました。


 そのレシピはすぐに思いつき、ノートに書きました。


「明日、少しだけ作ってみたいです」

「手伝います」

「よろしくお願いします」


 明日のレシピの実践が、星愛はとても楽しみです。

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