第3話


 星愛が、ここでの生活に慣れた頃、月鬼に誘われて、王都の散策へ赴きました。


「服、買い行こう。ついでに薬とかも」

「色々と周るんですね」

「一箇所で済む。そのあとは、行きたい場所へ、共に行こう」


『可愛い生き物にお任せなの』と書かれた看板。その看板の建物へ、月鬼は入りました。


「いらっちゃいまちぇー。可愛い生き物達におまかちぇくだちゃい」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか?」


 建物に入ると、エンジェリア達が出迎えます。ここは、エンジェリア達の営む店です。


「略ちて、可愛いおまかちぇでちゅ」

「それ言ってんのお前だけな」

「えっ?僕も良く言ってるよ?」


「月鬼様、ここって」

「ここにいる間の資金稼ぎらしい。ついでに情報収集も兼ねてるとか」


 この国では、十五歳にならないと、店は持てません。ですが、エンジェリア達は特例で、月鬼が許可しております。


「あの時は挨拶できなかったな。俺は、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンド。この店共々、今後ともよろしく。で、今日は何をお求めで?」


「今日は、服と薬を買いに来た」

「ちゅいでに、お昼もどうでちゅか?月鬼が来たら宣伝でちゅ。おいちいって言ってくれたら宣伝でちゅ。ちゅいでに魔法具も」

「儲かってないのか?」

「ううん。エレ以上の調合師なんてそうそういないから、だいぶ儲かってるよ。安くするから買って行きなよ。というか、ここより安い場所ないよ。この質で」


 エンジェリアが、月鬼に向かって「かーえかーえ」と繰り返しています。


「……今日はあいにく持ち金が」

「足りなかったら、情報で」

「そっちが本命か」

「むしろ金いらないから情報よこせって思ってる」

「……分かった。買うからこれ止めろ」


 エンジェリアは、月鬼が逃げないようにと、巨大な魔法具を「んっしょんっしょ」と持ってきていました。


「エレ、買ってくれるって」

「ぷみゅ。かーえかーえちぇいこぉなの」


 エンジェリアは、笑顔で、両手を上げて、ぴょんぴょんと跳ねています。


「おちゅちゅめは、これなの」

「……理由は?」

「さいじゅとおにあいちょうなのと、お値段」

「……値段は考えなくて良い。どうする?」

「えっと」


 エンジェリアが、薦めている服は、藍色の膝下丈のワンピース。


「月鬼様は似合うと思いますか?」

「もう少し、明るい色合いの方が似合いそうだ」

「ふみゅふみゅ。勉強になるの……こうなったら、エレが、自分が着たいって思ってちゅくったとっておきだぁー」


 上品でいて、少し遊び心のあるような可愛らしさのあるワンピース。


「エレは、ちょうらいこうならないから着れないの」

「エレは、もっと可愛いのが似合うから、着れなくて良かったけど」

「むにゅぅ。それで、どうちまちゅか?買ってくれまちゅか?というか、かーえーなの」


「どうする?好きにして良い」

「そうなの。気に入ったなら、着てほちいの」

「これなら、似合いそうだしな」

「……じゃあ、買いたいです」


 エンジェリアは、笑顔で「まいどありー」と言いながら、ワンピースを畳みました。


「他にもお洋服買いまちゅか?あと一着くらいあった方が良い気がするでちゅ」

「なら買おう。さっきみたいな感じで」

「これはどうでちょう。こちらは大人気ちりーずの初作でちゅ。デザインとか、これ一品ものでちゅ。買わないと損でちゅ」

「買おう」


 月鬼が即決しました。


「ふっふっふ、そうくると思ったでちゅ。おくちゅりは、いちゅもの?」

「ああ」

「分かったでちゅ……月鬼、この、ちんちゃくの目ちゅかれとれたをちようちてくれると、おねぇちゃん達のおけちょうひんとちぇんがんちぇっとを」

「伝わりづらい。翻訳」

「昨日できたばかりの、新作、目疲れをとる薬の試供品を使ってくれたら、エレ特製の化粧品と洗顔セットをプレゼント。月鬼、僕らの事、エレの翻訳機能かなにかだと思ってる?」


 エンジェリアは、許可を取る前に、試作品と化粧品、洗顔セットを袋詰めしています。


 気になって見た、星愛と目が合うと、背中で隠しました。それを見た、星愛は、クスリと笑いました。


「エレ、ついでにもう一つのも入れておくさ。この前作った、聖星の秘薬の試作品」

「ふみゅ。こっちょり入れておくの」

「エレ、俺料理作ってくるから、ついでに魔法具一式入れといてやれ。というか、全種類の薬と試供品も入れてやれ」

「みゅ。なら、ちゅうのうぶくろで入れるの」


 ゼーシェリオンが、料理をしに厨房へ向かいます。

 エンジェリアは、現在売っている商品を全種類、収納魔法具の中に入れています。


「……星愛、お前は、外を知らないんだったな」

「はい。今日初めて、こうして買い物もしています」

「なら覚えておけ。ぼったくり以上に厄介なこの店の実態を」

「月鬼だけでちゅ。これやるのは」

「そうだよ。流石に、やる客は選ぶって。今までやったのだって、月鬼と、仕事で偶然こっちに来ていた、主様とイールグとリグとゼム以外にはやってないから」

「だけって」

「エレはやってないの」


 月鬼が、呆れていますが、星愛は、目新しく、何を入れるのかじっと見ています。


「他にもほちいのあったら言って」

「今ある商品片っ端から入れてなかったらあったかもしれないな」

「ふみゅ。ないという事でエレはデザートちゅくりに励むの。おねぇちゃん、甘いものちゅき?」

「えっと、食べた事がないです」

「ふみゅ。エレがおねぇちゃんにちゅきになってもらえるように頑張るの」


 エンジェリアは、そう意気込んで厨房へ走りました。


「先にお会計という事で、この商品達に見合う情報を」

「赤の姫の目撃情報と近隣国で相次ぐ魔法具の暴走と異形の魔物で良いか?」

「大歓迎だ。月鬼、星愛姫、こちらへ」


 少年が案内したのは、薄暗い部屋です。


「ここに来たのは、初めの時以来か」

「そうだね。僕らの本来の目的のための場所。ギュゼル……管理者としての役目を果たす時以外は使わない、特別な部屋だ」

「今回の情報は、そちらの管轄で良いと?」

「国の立て直しで忙しいだろうから、今回は引き受けようかと思って。それに、エレとゼロに危険が及ぶ前に対処しておきたい。座ってて。僕は、先に記述の魔法具と証を出すから」


 月鬼と星愛が、ソファに座ります。


「……ここに……あった」

「なんで普段から置いてない?」

「さぼ……他の仕事の時とかに使ってるから。置いてると邪魔になるんだ」

「……」


 少年が、魔法具を取ってから、ソファに座りました。


「記述、赤の姫の目撃」

『了解シマシタ。オ代ハ、エレナデナデデス』

「……こんなのだったか?」

「前のは壊れたんだ。それで、エレに作ってもらったらこうなった。特殊な方法で作っていて、聡明姫の見解まで知れる優れものなんだ。僕とゼロの言う事以外聞かないけど」


 月鬼は、少年に持っている情報を話しました。


      **********


「ふみゅ。ケーキにちたの」

「料理できた」


 丁度、月鬼の話が終わった時、エンジェリア達が料理を持ってきました。


「それではごゆっくり」

「エレ達は、お店開けないとなの」

「お代は頂いているので、帰る時はそちらの裏口からどうぞ」


 エンジェリア達は、そう言って、店に戻りました。


「……」

「どうされたんですか?」

「なんでもない」

「そんなふうに見えません」

「……気にするような事じゃない」

「私、月鬼様の」


「月鬼、ごめん。魔法具片付け忘れてた」


 少年が戻ってきて、急いで魔法具を片付けます。


「……フォル、期待させて、もし違っていたらと思い、言わなかったが、彼らの目撃情報があった」

「……」

「ここから西にある高原に、それらしい人物がいたそうだ」

「……そう。ありがと。今度確認してみる」

「……いつも世話になっているというのに、こんな事しかできず申し訳ない」

「そんな事ない。仕事のための場所の提供に、定期での情報提供。いつも助かってる。今後も、良い関係を築いていきたい」


 少年はそう言って、店に戻りました。


「……さっきの話は」

「……星愛、もし、あそこにある写真の人物を見かけたら言って欲しい」


 写真に写っているのは、エンジェリア達と、不思議な雰囲気の少年少女達。


「分かりました。もし見つけたら、必ず言います」

「ああ。そうしてくれると助かる」


 月鬼は、そう言って、視線を写真に移しました。


「……早く、見つかれば良いが……」

「……」

「……星愛、星愛の料理も美味いからな」

「これには劣ると思いますが。ありがとうございます。それが、話題を逸らすための嘘だったとしても、嬉しいです」

「……流石にこんな嘘を言ってまで、逸らそうとは思っていない」


 その後、星愛と月鬼は、黙々と昼食を食べて、裏口から外へ出ました。


 外へ出る前に、月鬼は、一枚のメモと、お金を机に置いていましたが、星愛には、そのメモが読めませんでした。

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