第8話 琴の生涯
時は幕末、文久3年(1863年)。上野国利根郡利根村(現在の群馬県沼田市利根町穴原)に生まれた琴は、幼少のころから剣術に優れ、その腕前は村の中でも名を馳せていた。しかし、琴の剣術の才能が特別だったのは、ただの武芸にとどまらなかった。彼女は長刀を使いこなし、その剣さばきは、しばしば男たちをも圧倒した。
琴の兄は、浪士組に参加し、京へ上ることを決めた。しかし、その決断をする前に、琴は兄に言った。「私も共に行く。男装して、あなたと共に戦う」兄は驚き、そして心配したが、琴の固い決意を前に、彼女を京に連れて行くことに決めた。
男装をした琴は、身長170cmという当時の女性としては非常に高い体格を生かし、京に到着した。見た目こそ若い武士のようで、周囲に男と間違われることも多かったが、その実力は間違いなく剣の使い手だった。
そして琴は新徴組に参加し、戦いの中で数々の戦功を上げた。彼女は男装していたため、その正体が明かされることはなかった。周囲の者たちは、彼女が女性であることを知らぬまま、共に戦う同志として接した。
ある戦いの後、琴は仲間たちに語った。「私の目標は、強い者と結婚することだ。それが私の夢だ」しかし、周囲の誰もが琴に惹かれ、彼女の姿に心を奪われたが、琴の求める「自分より強い者」は現れなかった。そのため、琴は生涯独身で過ごす決心を固めた。
年月が経ち、時代は移り変わり、明治時代を迎えるころには新徴組も解散していた。琴はその後も静かな生活を送り、長い間、過去の戦の記憶を胸に抱きながら生きた。
1927年(昭和2年)10月12日、琴は静かに息を引き取った。その墓は故郷、利根町穴原にあり、今も訪れる人々がその足跡を辿っている。
令和時代、琴が回想する
時は令和の世。琴が生きた時代から百年以上が過ぎ、彼女の名は伝説となった。歴史に名を刻んだ女性剣士として、その生涯は多くの人々に語り継がれている。しかし、もし琴が今生きていたら、どんなことを感じただろうか。
琴がもし現代に回想するならば、彼女はどう思うだろうか。あの頃の激動の時代を胸に抱き、力強く戦った自分を誇りに思うだろうか。それとも、強さだけでは全ては満たされないと感じるのだろうか。
「戦いの中で最も大切だったのは、仲間との絆だったかもしれない」そう、琴は思うだろう。時代が変わり、戦のない平和な時代に、彼女は静かに微笑みながら言うかもしれない。「強さだけがすべてではない。人の優しさこそ、戦いの後に残るものだ」
シーン:戦場の帰路
貞祇は戦から帰る途中、夕暮れ時の荒野を歩いていた。風が冷たく、遠くの山々は薄明かりに包まれている。彼の手には、血に染まった刀がまだ握られている。
そんな時、ふと立ち止まり、遠くに見える村の方向を見つめる。村の家々の屋根が、わずかに夕日の光を反射している。それは、彼の家がある場所だ。
貞祇の胸中には、家族、特に妹の琴の顔が浮かんでくる。戦の中でどんなことがあっても、妹を守りたいという強い思いが心を締め付ける。
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シーン:家の中
家の中では、琴が一人で布団を整えている。その姿が少し大人びて見えるが、まだどこか子供らしさを残している。
琴は貞祇が戻ることを心待ちにしていた。毎日、外で聞こえる足音に反応し、兄の帰りを願う。今、彼女の目に映るのは、静まり返った部屋だけだ。
突然、戸が開く音が響く。
琴(振り返り、目を輝かせて)
「お兄ちゃん!」
貞祇が戸を開けて入ってくると、琴は駆け寄ってきた。二人の目が合うと、何も言わずにただお互いを見つめる。その間、二人の間には言葉にしなくても伝わる絆が流れていた。
貞祇(優しく、少し照れくさそうに)
「琴、元気だったか?」
琴(無邪気に)
「もちろん!でも、お兄ちゃんがいない間、寂しかったよ」
貞祇は微笑み、琴の髪を優しく撫でる。彼は戦場で多くの命を奪ったが、家に帰れば、妹を守ることしか考えられない。
貞祇(真剣に、少し力強く)
「これからは、ずっと一緒だ。お前が安心して過ごせるように、俺はどんなことでもするからな」
琴はその言葉に涙をこぼしそうになるが、必死にこらえる。彼女にとって、兄の言葉がどれほどの意味を持っているか、言葉にできないほどだった。
琴(涙をぐっと飲み込みながら)
「お兄ちゃん…ありがとう」
貞祇はそのまま、琴を抱きしめる。戦場での冷徹さと、家での温かさ。その二つが彼の中で完璧に調和している瞬間だった。
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シーン:夜の庭先🌌
その夜、二人は庭で星空を見上げていた。貞祇はいつも通り冷静だが、琴の目には彼の中に秘められた温かさがにじみ出ているのがわかる。
琴(静かに)
「お兄ちゃん、怖かったんでしょう?」
貞祇(少しだけ表情を崩し、静かに)
「怖いのは…嫌だ。でも、戦いに行かなければ、守れない人がいるんだ」
琴はしばらく黙って彼の隣に座っていたが、やがて声を上げる。
琴(真剣に)
「お兄ちゃんがいるから、私は怖くない。お兄ちゃんがいるから、私は強くなれる」
その言葉に、貞祇は微かに目を細め、深いため息をつく。彼の中で、家族を守るという使命感が一層強くなる瞬間だった。
貞祇(低く、しっかりと)
「俺も、お前を守る。これからもずっと、どんなことがあっても」
二人は星空の下、静かに寄り添っていた。兄妹の絆は、戦場でも、家の中でも、永遠に続いていくことを約束し合った。
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