ユリゼルの秘密



深層の戦いを終えたアレクとユリゼルは、静かな時間を取り戻しつつあった。周囲には戦闘の痕跡が残るものの、二人の間には安堵の空気が漂っていた。

アレクは地面に座り込みながら剣を眺め、ぽつりと呟く。


「お前、ここにいる理由を話すって言ってたよな。」


ユリゼルは肩に寄りかかっていた体をゆっくり起こし、少し躊躇したように視線を落とした。しかし、やがて覚悟を決めたように話し始めた。


「……私は、ある使命を帯びてこのダンジョンに封印されていた存在なの。」

「封印、ねぇ。それが解けて、お前は自由になったってことか?」


アレクの言葉に、ユリゼルは首を横に振った。その表情には微かな悲しみが宿っていた。


「いいえ、封印が解けたわけじゃない。むしろ、解けてはいけないの。私が解放されれば、このダンジョンそのものが崩壊する可能性があるから。」

「……どういうことだ?」


アレクは眉をひそめた。ユリゼルの言葉の意味が、簡単には理解できなかった。


「このダンジョンは、私を中心に構築された“結界”の一部なの。もともと、この地は異界と人間界を繋ぐ裂け目だった。私は、その裂け目を封じる役割を持つ精霊なのよ。」


彼女の声には重みがあった。その言葉から、彼女の存在がただの仲間ではなく、世界そのものに関わる存在であることが伝わる。


「じゃあ、お前がいなくなると、また裂け目が開いちまうってことか。」

アレクは深くため息をついた。


「……そういうこと。だから私はこの場所から離れることができなかった。だけど、あなたが現れたことで、少しだけ希望が見えたの。」


ユリゼルはアレクを真っ直ぐ見つめた。その瞳には揺るぎない決意と、微かな期待が込められていた。


「あなたの“好都合”のスキルは、この世界の“理”に干渉する力を持っている。もしその力を応用できれば、私が自由になっても裂け目を封じたままにできるかもしれない。」

「……なるほど。だから、俺に賭けてみたわけか。」


アレクは苦笑しながら、剣を地面に突き刺して立ち上がった。


「大したもんだよな、精霊ってやつは。自分の存在が世界のために必要だってわかってても、諦めずに方法を探そうとするなんてさ。」

「ふふ、そうね。でも……そのおかげで、あなたに出会えたのは“好都合”だったわ。」


ユリゼルは微笑みながら、そっと手を差し出した。アレクはその手をしっかりと握り返した。



しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。ダンジョンの奥から、不穏な振動が響いてきた。地面が揺れ、遠くから低い唸り声が聞こえる。


「……まだ終わってないみたいだな。」

アレクは剣を引き抜き、再び戦闘の準備を整える。


ユリゼルも立ち上がり、周囲に視線を巡らせた。「異界の君主が消えたことで、封印が少し緩んだのかもしれない。このままでは、さらに強力な存在が現れる可能性が高いわ。」


「そいつらを倒せばいいだけだろ。」

アレクは肩をすくめながら、軽い口調で答えた。しかし、その目は鋭く、戦闘に備える意志がはっきりと見て取れた。


「本当に頼もしいわね。じゃあ、私も全力でサポートする。」


二人は再び深層の奥へと足を踏み入れた。その先には、かつてユリゼルが封印した存在たちが待ち受けているかもしれない。だが、彼らはすでに覚悟を決めていた。


アレクの「好都合」とユリゼルの精霊としての力が交わり、新たな戦いが始まろうとしている。

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スキル「好都合」だけで難易度SSランクの世界を生き延びることは可能なのか─? @ikkyu33

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