封印を破った者



深層での激闘が続き、アレクとユリゼルは巨大な魔物を打ち倒した。だが、その瞬間、周囲の空気がさらに重くなり、異質な気配が二人を包み込む。何かが近づいている――それを二人は直感で感じ取った。


「まだ終わりじゃないみたいだな。」

アレクが息を整えながら剣を肩に乗せ、視線を奥へ向ける。ユリゼルも周囲を警戒しつつ、静かに口を開いた。


「この感覚……間違いないわ。封印を破った存在が近い。」


その言葉が終わるや否や、目の前の闇の奥から重い足音が響き渡る。やがて姿を現したのは、人型を保ちながらも異様な黒いオーラをまとった存在だった。その目は赤く輝き、見るだけで心が凍りつくような恐怖を植え付ける。


「……なんだこいつは?」

アレクが唸るように問いかけると、ユリゼルは鋭い視線をその存在に向けた。


「かつてこの地を支配し、封印された“異界の君主”よ。私たち精霊ですら対処に手を焼いた存在。」


ユリゼルの声には微かな震えが含まれていた。その様子を見て、アレクは剣を強く握りしめる。


「おい、そんな顔するなよ。お前が震えてたら、俺だってやる気がなくなる。」

「……アレク。」

ユリゼルは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「ふふ、たしかに。私と出会えたことも好都合かもね。こうして一緒に戦える“相棒”がいるなんて思ってなかった。」

「ああ、俺もだ。どうせここまで来たんだ。最後までお前につきあってやるよ。」


二人のやりとりに応えるように、“異界の君主”が手を振り上げ、巨大な漆黒の剣を生成した。その一撃が放たれる瞬間、ユリゼルは魔力を全開にして結界を展開する。



戦闘は熾烈を極めた。異界の君主はその巨体からは想像もつかない速度で攻撃を繰り出し、アレクとユリゼルを圧倒する。ユリゼルは精霊としての高位魔術を駆使し、アレクはその戦闘経験と「好都合」のスキルを最大限に活かして応戦する。


「ユリゼル! 右だ!」

「わかってる!」


二人の連携はこれまで以上にスムーズだった。アレクが剣で異界の君主の攻撃を逸らし、その隙をユリゼルが魔術で突く。だが、異界の君主の防御は鉄壁で、一向に有効打を与えられない。


「これじゃ埒が明かない……!」

ユリゼルが焦りの声を漏らす。彼女の魔力も徐々に消耗し、体力の限界が近づいていることが見て取れた。


「なら、俺に賭けてみろ。」

アレクは一歩前に出ながら言い放つ。その目は自信に満ちていた。


「まさか……あのスキルでどうにかする気?」

「“好都合”はただの便利スキルじゃない。俺がここまで生き延びてきた理由だ。任せろ、俺に都合が良くなるようになってる。」


ユリゼルは迷ったが、すぐに頷いた。「わかった。全力で援護する。」



アレクは深呼吸し、全神経を集中させた。“好都合”のスキルが発動する感覚が彼を包み込み、次の瞬間、異界の君主の動きが一瞬だけ鈍った。それを見逃さず、アレクは渾身の力を込めて剣を振り下ろした。


「行けえぇぇぇ!」


その一撃は、異界の君主の体を深々と貫き、赤いオーラが吹き飛ばされる。続けてユリゼルが高位魔術を発動し、周囲の魔力を一気に浄化した。


異界の君主は断末魔の叫びを上げ、やがて消え去った。その場には静寂だけが残った。



「やった……のか?」

アレクが膝をつきながら息を整える。ユリゼルは彼の隣に座り込み、疲労の色を隠せない。


「ふふ、まさか本当にやれるなんてね。私の選択、間違ってなかったわ。」

「そりゃよかった……ったく、お前は精霊とか言ってたけど、随分と人間っぽいじゃねえか。」

「ええ、そうかもしれない。特に、あなたといるとね。」


ユリゼルは微笑みながらアレクの肩に寄りかかった。その仕草はどこか人間らしい親しみを感じさせた。


「……私がここにいる理由、それも全て話さないといけないわね。でも、その前に少し休ませて。」

「ああ、休め。俺も限界だ。」


こうして、二人の絆は戦いを通じてさらに深まった。次の展開では、ユリゼルの使命の全貌や、この戦いの裏に潜むさらなる脅威が明らかになるだろう。

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